研究課題
HDLには粥状動脈硬化を抑制する機能の存在が知られており,その代表的な機能であるコレステロール引き抜き能(CEC)が心血管疾患の発症リスクの予知に有用であることが示唆されている.我々は新たなCEC評価法として固相化リポソーム結合ゲルビーズ(immobilized liposome-bound gel beads; ILG)を用いた分析法の開発を進めてきた.HDL亜分画の違いがCECに及ぼす影響を評価するため,HDL2,HDL3を対象にILG測定法とTHP-1細胞株を使用した従来法にて評価を試みた.両方法において,これらのHDLのCECは同様の結果を示した. これらのCECはHDL亜分画中の総コレステロール濃度 / 総蛋白濃度比の違いに起因し,既存のコレステロール引き抜き能に関する知見と一致するものであった.また,このILG法を応用し,蛍光リン脂質含有リポソームを利用した新規リン脂質引き抜き能の評価法の開発を試みた.蛍光リン脂質のゲルへの固相化に成功したが,従来のCECで用いられたアクセプターによるリン脂質の引き抜き量は予想を下回る値であった.ILG法のリン脂質引き抜き能の応用への実現可能性は示唆されたが,効率的な引き抜きを目指した測定法の改良が今後の課題である.加えて,将来のHDL抗酸化機能の量的評価を見据え,1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)を用いた血清の抗酸化能測定法の開発に取り組んだ.血清の抗酸化能は2から4倍までの希釈域で濃度依存的な相関と直線回帰が認められた.また,日常検査への応用を目指し,反応条件を37℃,20分に変更し従来法と比較した.反応条件を改良しても従来法と同様の結果が得られた.汎用的な温度条件及び短縮された反応時間で測定可能であり,血清検体中の総合的な抗酸化能を定量的に評価できる手法としての有用性が示唆された.
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Bioscience Reports
巻: 40 ページ: BSR20201495
10.1042/BSR20201495