研究課題
乳癌や女性の肺腺癌はホルモン依存性癌として知られ、エストロゲン受容体がその発育を担う。本研究は、乳癌におけるERαと転写共役因子複合体メディエーターのサブユニットMED1の役割に関する先行研究を発展させ、乳癌の発症・増殖・転移・治療反応性に関する新しい遺伝子診断と分子治療標的の可能性を模索する。さらに乳癌研究の成果を女性肺腺癌に適用して、これまでホルモン依存性癌として殆ど認識されなかった女性肺腺癌の特性を解明し、ERやER特異的コファクターを標的にした分子標的療法開発を目指している。1.マウスを用いたMED1とCCAR1の乳癌の発症・特性における役割の解析乳癌の発症・増殖・転移におけるMED1の役割を解明するため、乳癌モデルマウスの系で、我々の保有するMED1各種変異マウスとCCAR1 KOマウスおよびこれらのダブル・トリプル変異マウスを作成した。現在はこれら変異マウスのn数を増やしつつ、乳癌の発症率、増殖速度、転移様式、生存曲線などを解析中である。さらに変異マウスから得られた乳癌細胞の初代培養とヌードマウスへの移植方法を確立した。2.乳癌細胞培養系を用いたMED1変異の細胞増殖における役割の解析ERα陽性(MCF7)、 EGFR2/HER2陽性(BT474)、および両者陰性(BT549)の乳癌細胞株を用い、CRISPR-Cas9(KO)を用いてMED1KO細胞株を確立することに挑戦した結果、BT549のMED1KO細胞株は得られたものの、MCF7におけるMED1KO細胞株が得られなかった。これはERα陽性乳癌細胞株であるMCF7にとってMED1の役割が極めて重要であったためと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画に示したことのうち、MED1およびCCAR1変異乳癌モデルマウス作製とその解析が順調に進んでおり、次年度の研究につなげることが十分可能である。
1.マウスを用いたMED1とCCAR1の乳癌の発症・特性における役割の解析乳癌の発症・増殖・転移におけるMED1の役割を明らかにするため、作成した乳癌モデルマウスの系で乳癌の発症率、増殖速度、転移様式、生存曲線などを解析し、MED1のドメイン構造およびCCAR1と、乳癌の発症・病態との関係を明らかにする。さらに各種変異マウスの乳癌初代培養細胞をヌードマウスに移植し、その後の発癌率を解析する。2.乳癌細胞培養系を用いたMED1変異の細胞増殖における役割の解析ERα陽性(MCF7)、 EGFR2/HER2陽性(BT474)、および両者陰性(BT549)の乳癌細胞株を用い、siRNA (KD)を用いてMED1やCCAR1の発現を抑制し、各種MED1を導入してレスキューすることにより、分子細胞生物学的・生化学的にマウス表現型の分子機序を証明するとともに、ERαやEGFR2依存性とクロストークを解析する。以上より、ERα、MED1、CCAR1の乳癌におけるリガンド依存性と非依存性の役割と受容体型チロシンキナーゼの関与を明らかにする。3.培養系を用いた女性肺腺癌におけるMED1とCCAR1の役割の解析女性由来および男性由来の肺腺癌細胞株のmRNA発現(Transcriptome)をERβ等アクチベーター、MED1やCCAR1、エピゲノム修飾酵素等コファクターに注目しつつ網羅的に調べる。男女差がMED1以外にあれば蛋白発現も調べ、その機能をトランスフェクトないしKO・KDして分子細胞生物学的に解析する。またERβ機能をルシフェラーゼレポーターアッセイやChIPアッセイ等転写研究の手法で解析する。
購入予定であった研究試薬の購入がコロナの影響で年度内に納品できないことが判明したため次年度使用額が発生した。未使用額は次年度の購入経費に充てる。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (5件)
Transcription
巻: 10 ページ: 147-156
10.1080/21541264.2019.1624467.
Biochem. Biophys. Res. Commun.
巻: 521 ページ: 562-568
10.1016/j.bbrc.2019.10.176.