研究課題/領域番号 |
18K15421
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
八木 美佳子 九州大学, 医学研究院, 助教 (70536135)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | mitochondria / NAD / HIF1 / lysosome / autophagy / knockout mouse |
研究実績の概要 |
老化に伴う多くの疾患はミトコンドリア機能、オートファジー機能, 血中NAD量低下が関与すると考えられているがその詳細な分子機構は明らかでない。我々が作成した、ミトコンドリア機能不全マウスの解析から心筋特異的ノックアウトマウスでは拡張型心筋症を早期に呈することを見出し、寿命は約500日に減少することを突き止めた。このマウスの心臓を用いて様々な解析を行った。このミトコンドリア機能不全マウスではオートファジー機能の中でも特にリソソーム機能が阻害されていること、その原因がミトコンドリア機能障害より発生したNAD合成阻害であること、は既に発見していた。今年度はさらにNAD合成阻害について、リソソーム機能との関連性について、詳しく解析した。 ミトコンドリア機能不全マウスの心臓組織ではNAD合成経路の特にサルベージ経路に関連する酵素群の発現や活性が減少していた。その中の酵素の一つであるNmnat3に着目した。このNmnat3はミトコンドリア局在と考えられていたが、その一部はサイトゾルに局在しNAD合成に関与していることを証明した。Nmnat3がサイトゾルでリソソーム機能を亢進することも発見した。細胞内NAD量とリソソーム機能には関連性があり、NAD合成阻害剤を添加するとリソソーム機能は低下した。 さらに、ミトコンドリア翻訳障害によってNmnat3はRNA発現量が減少するがHIF1α阻害剤添加で抑制されたため、Nmnat3は転写因子HIF1αの発現と関連性があることが分かった。 ミトコンドリアとオートファジーについて解析するためにダブルノックアウトマウスを作製しミトコンドリア機能、オートファジー機能、について調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた培養細胞の実験がほぼ終了しているため、順調に進展していると考えている。 実際に行った実験としては、NAD合成阻害剤を用いて、オートファジー関連タンパク質(Lamp2, p62, LC3)の発現減少を確認した。また、Lysotracker redによる染色が変化することやLamp2とp62の局在変化等のデータは既に得られた。したがってNAD合成阻害によってリソソーム機能が低下することが示唆された。さらにNAD合成阻害剤によるリソソーム機能低下は、サルベージ経路中間代謝物によって回復することも証明済みである。 ミトコンドリア機能不全マウスの心臓組織では転写因子HIF1αの発現が増加していたため、培養細胞でミトコンドリア機能とHIF1α、NAD合成酵素であるNmnat3の関係を調べた。ミトコンドリア翻訳障害をクロラムフェニコール処理によって誘導するとNmnat3の発現は低下するが、HIF1α阻害剤も同時に添加するとNmnat3の発現低下は起こらなかった。したがって、Nmnat3の発現はHIF1αと連携しており、その制御にはミトコンドリアも関与することを証明した。 予定していたダブルノックアウトマウスは作製済みであり、心機能やミトコンドリア機能等の予備実験は終了した。実験に必要な匹数も確保できている。
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今後の研究の推進方策 |
さらにミトコンドリアとオートファジーの関係性を詳しく調べるために、ミトコンドリア機能不全マウスとATG5ノックアウトマウスを交配させダブルノックアウトマウスを作製した。ATG5はオートファジーに必須なオートファゴソーム膜を形成する因子の一つである。このダブルノックアウトマウスはミトコンドリア機能不全マウスと比較すると、寿命は短く、心臓機能も悪く、線維化や心肥大、心筋症マーカーの発現も増加していた。ミトコンドリア機能もさらに低下していた。 このダブルノックアウトマウスを用いて、オートファジーの特にリソソーム機能やその形態等を観察していく。ミトコンドリア機能不全マウスと同様にダブルノックアウトマウスにおいて心臓組織のメタボローム解析を行い、細胞内NAD量を確認する。当教室にはすでに質量分析器が稼働しており、中央代謝系、脂質を中心に約300種類の代謝物の解析が可能である。そしてNAD合成系(de novo合成系、サルベージ系)に関与する酵素 (Nampt、Nmnat-1、-2、-3、 Qaprt、Naprt、NADsyn1) 8種類の遺伝子発現プロファイル、Nmnat活性測定など、NAD合成に関してミトコンドリア機能不全マウスで行った機能解析を全て行う予定である。この解析を経時的変化と共に追うことによって、ミトコンドリアとオートファジー不全やリソソーム不全の予測マーカーの探索、さらに老化に伴うミトコンドリアとオートファジー疾患のマーカー探索、その意義、妥当性を検証し病態検査、治療効果判定など実臨床に応用できないか模索する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は培養細胞の実験が主流ですでに研究室に揃っている物品を使用することが可能であった。しかし次年度は作製したダブルノックアウトマウスの維持と繁殖、さらにその解析等で多くの資金が必要となることが予想されるため次年度使用額が多くなった。 使用計画として、メタボローム解析による代謝産物解析、電子顕微鏡解析による形態変化の観察、NAD合成酵素の遺伝子発現プロファイルと酵素活性測定、を計画している。さらに可能ならば、NAD合成阻害剤やサルベージ経路中間代謝物等の試薬を用いた解析も行う予定である。
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