研究実績の概要 |
1.5-アンヒドログルシトール (1,5-AG) は、医療現場で血糖コントロールの指標として用いられている糖アルコールである。臨床における1,5-AGの知名度は高いが、体内における1,5-AGの働きに関する詳細は明らかでない。本研究は、1,5-AGの「①体内動態の制御機構」と「②諸細胞の機能及び糖代謝に関係する生理学的作用の有無」を明らかにすることを目的とする。課題①の1,5-AGの体内動態の制御機構を解析するため、1,5-AGを輸送すると報告されているNa+-dependent glucose transporter (SGLT) の発現細胞を作成した。さらに作成した細胞のグルコース輸送を評価するために、カーボン14標識グルコースおよび2-deoxyglucoseの取り込み実験と質量分析装置による1,5-AGの測定法の立ち上げを行っている。課題②の諸細胞の機能と糖代謝に関係する生理学的作用を解析するため、1,5-AG長期投与マウスの作成を行う。研究実施計画書では混餌による1,5-AG投与法にてモデルマウスを作成する予定であったが、餌を介した1,5-AG投与により血中1,5-AG濃度が増加したとする報告がないため1,5-AGの投与法を変更する必要があると考えている。現在、浸透圧ポンプによる投与方法の有効性を検討中である。また、1,5-AGとの関与が報告されているインスリン分泌に重点を置き、ラット摘出膵とラットインスリノーマ細胞を用いてインスリン分泌に対する1,5-AGの生理学的作用の解析を進めている。解析に伴い、ラット摘出膵を用いて簡便にインスリン分泌の有無を評価できる実験系を立ち上げ、1,5-AGによるインスリン分泌誘導能の評価を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1,5-AGの細胞内取り込みを評価するため、共同実験者より供与いただいたSGLT発現細胞を用いて細胞内グルコース及び1,5-AGの定量を行う実験系の確立を行っている。しかしながら、Na非存在下に比してNa存在下で見られるグルコース輸送の増強が見られず、取り込み実験および測定法のプロトコールの修正を行う必要がある。1,5-AG長期投与マウスの作成にあたり、1,5-AGの投与方法を変更することとした。同様の投与を行った既報が存在しないため、投与量および投与期間の検討を行う必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
平成31年度(令和元年度)には、グルコース取り込み実験系を確立し、発現トランスポーター別に1,5-AGの輸送能を評価する。1,5-AGの取り込みが確認できた場合は、1,5-AG添加後の細胞からmRNAを抽出し、リアルタイムPCRにて増減するmRNAの有無を評価する。 また、浸透圧ポンプを用いて血中1.5-AG濃度が慢性的に高値となるモデルマウスを作成し、体重・血糖変化および耐糖能を評価する。さらに、1,5-AG投与モデルマウスの各臓器を摘出し、機能にかかわるタンパクの増減を評価する。特に膵臓においては、1,5-AG投与によるインスリン分泌への影響に重点を置いて検討を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
最も費用のかかる実験系である1,5-AG長期投与マウス作成の作成方法を見直したことにより、実験動物代、1,5-AG混餌の作成費用及び血中1,5-AGの測定費用が抑えられた。平成31年度(令和元年度)以降、浸透圧ポンプによるモデルマウス作成を行うため、実験動物・浸透圧ポンプの購入および血中パラメータ測定のためのキット購入を行う予定である。
|