研究課題/領域番号 |
18K15437
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小野 洋也 東北大学, 医学系研究科, 大学院非常勤講師 (90803578)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | dysferlin / 筋ジストロフィー / 細胞膜修復 |
研究実績の概要 |
Dysferlinopathyでは、たとえ同じ遺伝子変異を有する同胞間であっても、臨床的に近位筋優位の筋萎縮・筋力低下を示す肢帯型筋ジストロフィー2B型を呈する場合と、下腿後面の筋群が強く障害される三好型遠位型筋ジストロフィーを呈する場合があることから、修飾遺伝子の存在が示唆された。また、dysferlinは約230kDaの大きな膜タンパク質であることから、結合タンパク質を介して細胞膜修復の機能を発揮すると考えられた。従って、新規結合タンパク質を同定することが、まだ全容が明らかでない筋細胞膜修復機構の解明、さらにはdysferlinopathyの治療法開発につながると考えられた。 Dysferlin特定領域のアフィニティカラムを作成し、細胞抽出物を反応させて相互作用するタンパク質を抽出し、SDS-PAGEにより分離して、質量分析にかけることで、複数のdysferlin結合タンパク質を同定した。同定した結合タンパク質の一つであるAMPK複合体に注目し、レーザー膜損傷の実験系を用いて解析を行った。マウス骨格筋においてAMPK複合体がレーザーによる膜損傷部位に集積し、また培養細胞においてAMPK遺伝子発現抑制が筋細胞膜修復機能の低下に繋がることを発見した。さらにdysferlin欠損マウス骨格筋のレーザー膜損傷で、AMPK複合体の損傷部位への集積が遅延することから、膜修復機構において、dysferlinがAMPK複合体の局在を規定している(dysferlinが足場タンパク質として機能している)ことを見出した。さらにAMPK活性化剤の投与により、患者培養細胞において膜修復機能が改善することを明らかにするとともに、dysferlinopathyのモデル動物(ゼブラフィッシュおよびマウス)において骨格筋の障害が改善することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で得られたAMPK複合体が損傷を受けた筋細胞膜の修復において重要な役割を担っているという新たな知見は、根治療法がいまだないdysferlinopathyの治療法の開発に結びつく可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
AMPK複合体について、筋細胞膜修復に関与する既報の分子との関連についても今後解析をすすめ、膜修復機構の全容解明とdysferlinopathyの病態解明につなげていく。 また、AMPK活性化剤のモデル動物の異常回復効果の検証実験において、今回はドラッグ・リポジショニングの観点から、糖尿病治療薬であるメトホルミンの経口投与を行ったが、骨格筋のAMPKリン酸化は限定的であり、その効果は筋病理像、筋力低下の一部改善に留まった。AMPKは全身のエネルギー代謝に関する分子である。骨格筋特異的に、より強いAMPKリン酸化を目的として、ゲノム創薬など低分子以外の薬剤や薬物送達法に関する検討も今後行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:当初購入を予定していた、抗体の購入費が少なく済んだため。 次年度の使用計画:助成金は主に本研究を遂行するための物品費(細胞生物学的解析に必須の試薬:細胞培養試薬、遺伝子抽出試薬、抗体などの消耗品)、検証実験のためのマウス繁殖・系統維持費として使用する予定である。また、積極的な研究成果の発表のために必要な最低限の旅費、論文投稿費・ポスター作成等の印刷費などに使用する予定である。
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