筋ジストロフィーは、進行性の筋力低下と筋萎縮を呈する遺伝性難治性疾患である。Dysferlinopathyとは、筋細胞膜蛋白質dysferlinの欠損によって引き起こされる成人発症の筋ジストロフィーの総称である。Dysferlin欠損によって筋細胞膜の修復機構が損なわれ、そのため筋細胞の変性、壊死が生じると考えられている。これまでdysferlinのほかにも筋細胞膜修復に関与するdysferlin結合蛋白質が複数報告されているが、細胞膜修復機構の詳細はいまだ不明である。そこで、新規結合蛋白質を同定し、レーザー膜損傷の実験系を用いて、筋細胞膜修復機構の全容解明を目指した。そして得られた知見をもとに治療法開発に取り組んだ。 Dysferlin特定領域のアフィニティカラムを作成し、相互作用する蛋白質を質量分析にかけることで、複数のdysferlin結合蛋白質を同定した。その一つであるAMPK複合体が、マウス骨格筋においてレーザーによる膜損傷部位に集積し、また培養細胞においてAMPK遺伝子発現抑制が筋細胞膜修復機能の低下に繋がることを発見した。さらにdysferlin欠損マウス骨格筋のレーザー膜損傷で、AMPK複合体の損傷部位への集積が遅延することから、膜修復機構において、dysferlinが足場蛋白質として機能しAMPK複合体の局在を規定していることを見出した。さらに、AMPK活性化剤の投与により、dysferlin変異をもつ患者培養細胞において膜修復機能が改善することを明らかにし、dysferlinopathyのモデル動物において骨格筋の障害が改善することを確認した。 AMPK複合体が損傷を受けた筋細胞膜の修復において重要な役割を担っているという新たな知見は、根治療法がいまだないdysferlinopathyひいては筋ジストロフィー全体の治療法開発に結びつく可能性がある。
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