本研究では、神経変性疾患の病態を軸索ガイダンス蛋白の介在因子であるCRMPの観点から検討し、神経変性疾患の治療法開発につながる知見を獲得することを目的とする。多系統萎縮症(MSA)の凍結脳ではコントロールと比較して、total lysateと考えられるS1におけるリン酸化CRMP1/2は、小脳皮質で疾患コントロールと比較し、明らかな低下を認めた。不溶画分であるP3では、S1と比較し、MSAでリン酸化CRMP1/2の発現がみられており、MSAでは不溶画分にリン酸化CRMP1/2が蓄積する傾向があると考えられた。免疫組織染色において、MSAの小脳では白質を中心に、頚椎症、PSPと比較し、total CRMP2、リン酸化CRMP1/2の染色性が上昇していた。MSAにおけるリン酸化CRMP1/2は一部リン酸化αシヌクレインと共局在を示したことから、リン酸化CRMP1/2の一部はグリア細胞質封入体(GCI)に存在すると考えられた。一方で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)のヒト剖検検体、脊髄においてCRMPのリン酸化が上昇していることを示した.これらの知見をもとにCRMP非リン酸化マウスを作製し,ALSモデルマウスであるSOD1G93Aマウスとのバイジェニックマウスの作製を行った. CRMP欠損マウス,CRMP非リン酸化マウスをSOD1G93Aマウスと交配させ,生存率,運動機能,病理組織について検討を行った.CRMP欠損は,SOD1G93Aマウスの生存率,運動機能の改善を示さなかった一方で,CRMP非リン酸化は,生存率,運動機能の改善を示し病理組織においても脊髄における運動神経細胞の減少の改善, 神経筋接合部における脱神経所見の改善を認めた.今年度はさらに,iPS細胞の系を確立し,大脳皮質神経細胞,感覚神経細胞の樹立を行った.このiPS細胞系を用いてさらにCRMP2関連疾患の病態を解明する.
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