研究課題/領域番号 |
18K15466
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
横田 睦美 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10647415)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | PRKN変異 / iPS細胞 / ドーパミン神経細胞 / ミトコンドリアスフェロイド化 |
研究実績の概要 |
本研究ではiPS細胞由来ドーパミン神経細胞をGFP標識することによりドーパミン神経特異的なミトコンドリア機能・形態解析を可能にし、パーキンソン病におけるドーパミン神経特異的な変性機序を見出すことを主目的としている。 本研究ではこれまでに樹立したドーパミン神経マーカーTyrosine Hydroxylase(TH)遺伝子にGFP遺伝子をノックインした健常者及びPRKN変異患者TH-GFP iPS細胞株を用いている。昨年度はTH-GFP iPS細胞由来神経細胞において光顕電顕相関観察法(CLEM)やライブイメージング解析を行い、GFP陽性ドーパミン神経細胞ではその他神経細胞と比較してミトコンドリアのサイズが小さく膜電位が低いことを見出した。しかし、定常状態では健常者と患者間の差異が認められなかったため、今年度はCCCP処理を行ったTH-GFP iPS細胞由来神経細胞において解析を行った。24時間のCCCP処理を行った患者ドーパミン神経細胞は健常者ドーパミン神経細胞や患者その他細胞と比較して有意に細胞死が増加しており、パーキンソン病患者におけるドーパミン神経特異的な細胞死が再現された。さらに、細胞死が起こる前の3.5時間CCCP処理を行った健常者ドーパミン神経細胞においてはミトコンドリアの形態変化(スフェロイド化)が認められた。一方、患者ドーパミン神経細胞ではミトコンドリアの形態変化はほとんど認められなかった。 TH-GFP iPS細胞を用いたドーパミン神経細胞に特化した解析を行うことにより、ドーパミン神経細胞死が引き起こされる前のミトコンドリアの形態変化の違いを健常者患者間で見出すことに成功した。今回明らかとなったミトコンドリア形態変化障害はPRKN変異患者で認められる損傷ミトコンドリアの蓄積やドーパミン神経細胞死に関与している可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CCCP処理を行うことにより定常状態では認められなかった健常者と患者ドーパミン神経細胞間のミトコンドリアの形態変化の違いを見出すことが出来、今回の研究結果は重要な進展であったと言える。このCCCP処理によるミトコンドリアの形態変化(スフェロイド化)はこれまでにMEFやHeLa細胞で報告されていたが、神経細胞においては初めての報告となる。ミトコンドリアのスフェロイド化は損傷ミトコンドリアが分解される(ミトコンドリア品質管理機構の)際の形態変化として考えられており、今回PRKN変異患者で明らかとなったミトコンドリア形態変化障害は患者における損傷ミトコンドリア蓄積の要因の一つとなっている可能性を提示した。 本研究のTHレポーターiPS細胞とCLEMを利用したドーパミン神経細胞に特化したミトコンドリア微細構造の解析は、ミトコンドリアのスフェロイド化だけでなく様々なミトコンドリアの形態変化(ミトコンドリア小胞体接触やミトコンドリア由来小胞等)の解析にも応用可能であり、パーキンソン病病態解析のために有用であることを示した重要な成果である。これらの結果は原著論文(Yokota et al., Mol. Brain, 2021)にて報告した。
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今後の研究の推進方策 |
PRKN変異患者ドーパミン神経細胞で認められたミトコンドリアスフェロイド化障害はミトコンドリアのリソソームによる分解を妨げ、損傷ミトコンドリア蓄積の原因となっている可能性がある。そこで今後は、健常者患者間のミトコンドリア形態変化の違いと損傷ミトコンドリアの蓄積やドーパミン神経細胞死との関連について明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
一昨年度に子の出産による産前産後・育児休暇の取得により実験を約11ヶ月間停止したため一昨年度の未使用額が大部分残っている。 次年度もTH-GFP iPS細胞由来ドーパミン神経細胞の機能・形態解析を引き続き行うため、培養関連試薬やミトコンドリアの機能・解析用試薬のために研究費の大部分を使用する。また、新たな研究成果を発表するための学会経費にも使用する。
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