本研究の目的は、多発性硬化症(MS)における個別化医療の実現である。MSは、罹患者の受ける影響が大きく、医療費等の社会的負担も大きい疾患である。MSに対して血液浄化療法(免疫吸着療法等)が施行され、その効果には個人差が大きいが、事前の予測マーカーがなく、MSの多様な病態の細分化に基づいた個別化医療が求められている。 Th1細胞は炎症性T細胞の一種であるが、本研究によって、MSにおいては、血液中のTh1細胞頻度が高い患者で、免疫吸着療法が奏効することを見出した。この効果予測の精度は高く、MSの個別化医療に直結する成果であると考えている。さらに、Th1細胞頻度が高い患者で治療効果が認められる機序について研究を進めた。結果、免疫吸着療法においては、Th1細胞-CD11c+ B細胞軸を介した病態が抑えられることで、治療効果が生じることが示唆された。 また、MSにおける神経障害進行に関しては、中枢神経内に浸潤しているT細胞やB細胞の働きが重要とされる。上記のTh1細胞-CD11c+ B細胞軸を含めて、こうした中枢神経組織内での免疫機構動態を解明するため、MSや他の慢性炎症性疾患、さらに神経変性疾患を加えて、髄液の解析を行った。結果、髄液中では末梢血中には存在しない組織常在性T細胞(resident memory T細胞:Trm細胞)が豊富に存在することを見出した。さらに、こうしたTrm細胞は、コントロール群に比較して、MSや一部の変性疾患で共通して上昇していた。つまり、慢性進行性の中枢神経障害という側面においては、これらの疾患で共通してTrm細胞が関与している可能性がある。自己免疫疾患と神経変性疾患の重複領域の解明につながる、重要な知見と考えている。引き続き、Th1細胞-CD11c+ B細胞軸を含めて詳細な解析を行うとともに、Trm細胞の治療標的としての妥当性評価を進めている。
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