統合失調症患者における抗精神病薬の多剤大量投与は、患者の身体機能および精神機能の低下をきたすのみならず、医療経済学的な負担も大きい。近年、精神科臨床の場において、多剤大量投与の減薬の取り組みがなされており、精神症状の改善や脳機能の改善をもたらすことが期待されているが、その科学的根拠は乏しい。本研究では、統合失調症患者よりMRI撮像(安静時脳機能画像)を取得し、減薬により患者の脳機能の変化や臨床症状改善との関連を探索することを目的としている。初年度である平成30年度は、統合失調症患者29例を対象として、全脳の機能的結合と抗精神病薬服薬量との相関を調査した。汎用ソフトウェアであるDPARSFを用いて、安静時脳機能画像より脳機能的接続の全脳マトリックスデータを抽出した。その結果、左内側眼窩前頭皮質と小脳左葉との機能的結合が、抗精神病薬服薬量と負の相関を示した。以上より、抗精神病薬の大量投与が脳機能的接続の低下を生じうることが示され、精神機能や社会機能にも悪影響を及ぼす可能性が示唆された。平成31年度(令和元年度)は、縦断データとして存在する統合失調症6例を対象として、DPARSFを用いて、2時点の安静時脳機能画像より、脳機能的接続の全脳マトリックスデータを抽出した。令和2年度に、解析可能な脳機能的接続の全脳マトリックスデータ5例を対象として、抗精神病薬の薬剤量の変化との相関を調査したところ、有意な機能的結合は抽出されなかった。また、平成31年度(令和元年度)よりMRIマシンを変更して撮像することになり、新機種での撮像を開始し、令和5年度までに統合失調症4例、健常群36例の縦断撮像を完了した。この統合失調症4例について、脳機能的接続の全脳マトリックスの変化と抗精神病薬の薬剤量の変化との相関を調査したところ、有意な機能的結合は抽出されなかった。
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