研究課題/領域番号 |
18K15479
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
西岡 将基 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (00780503)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 精神疾患 / 双極性障害 / 統合失調症 / 自閉症 / 転移因子 / デノボ変異 / エクソーム / 死後脳 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヒトゲノム上転移因子のデノボ転移による精神疾患への寄与を明らかにするために行っている。レトロトランスポゾンに代表される転移因子は、初期のシーケンス技術では解析困難なため、これまでのゲノム研究から捨象されることが多かった。しかし、転移因子はヒトゲノムの45%を占め、精神疾患の遺伝率の一部を説明できる可能性がある。本研究では、精神疾患のトリオ家系サンプルのシークエンスデータを中心に、発端者には存在するが両親には存在しないデノボ変異としての転移因子(デノボ転移因子)を検出することを目的としている。当年度は、双極性障害229トリオ(687名)・統合失調症603トリオ・カルテット(1819名)に加え、自閉症トリオ・カルテット(計9044名)のエクソームデータの解析を開始した。デポジットデータへのアクセス申請・受理・ダウンロードを完了し、転移因子の検出を行った。双極性障害・統合失調症については、検出感度を高めるためGRCh37に加えhg38のアライメントデータからも転移因子の検出を行った。1000ゲノム計画に用いられた転移因子検出ソフトウェアであるMELTを用い、デノボ転移因子候補を探索した。各グループから検出したデノボ転移因子候補から最終候補へフィルタリングを行い、有力なデノボ転移因子候補を得た。本計画は、元々ウイルスであったと考えられる配列(転移因子配列)の挙動を探索することで、別な種・生物体として機能していたものが共生・寄生関係になるという生物学的現象の一例として研究を行っている。主要な研究対象である転移因子と並行して、同様の共生因子であるミトコンドリアに対しても、デノボ変異として観察される現象の探索を行った。結果、ミトコンドリアについても新規に出現したと考えられる変異が検出され、現在バリデーション実験中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当年度にてエクソームアライメントデータの整備及びデノボ転移因子候補の検出を完了した。候補から信頼性が高いと考えられるものを選定したが、今後選択基準の検討を行うことで来年度に最終決定する予定である。本研究計画の開始後に、自閉症と重度発達障害における転移因子の網羅的な報告がなされた (Brandler et al. Science 2018; Werling et al. Nature Genetics 2018; Gardner et al. Nature Communications 2019)。研究計画の進行としては当初の予定通りであるが、転移因子と精神疾患の関連について国際的な研究動向の進展があった。研究としての価値を付加するためには本計画の成果に開始時点では予定していなかった要素が必要となる。精神疾患の背景因子を探るという大枠の意義や論文報告の価値を踏まえると、当研究計画について標的の再検討が必要であると考える。「今後の研究の推進方策」で具体的な方向性を記載する。
|
今後の研究の推進方策 |
計画の主要な標的であるデノボ転移因子については、前述の通り自閉症については類似の報告が出されたため、本計画としては統合失調症に特に焦点を当てる。これまでの統合失調症603家系に加え、Howrigan et al. (Nature Neuroscience 2020) のデポジットデータ取得による解析トリオの追加(600~1800トリオ)を開始する。これまでの解析と同様のパイプラインにて転移因子解析を行う予定である。デノボ転移因子が主要な標的であるが、トリオにおける転移因子の伝達バイアス関連解析も補足的に行う。また、生殖系列ゲノムに加えて死後脳ゲノムデータに対しても転移因子解析を行い、発生初期変異も含めたデノボ転移因子の探索を行う。転移因子に加えて、ミトコンドリアも転移因子と並ぶ主要な標的と考え、デノボ変異解析を継続して行う予定である。前述の通り、本計画は別な種・生物体として機能していた要素が共生・寄生関係になるという生物学的現象が、ヒトの精神疾患に寄与しているのかという問いを背景として行っている。転移因子と同様に別な生物由来のゲノム要素であるミトコンドリアもデノボ変異探索の主要な標的とし、ミトコンドリアにおけるデノボ変異と精神疾患との関連についても検討を行う。
|