研究課題
統合失調症は世界的に有病率約1%のありふれた疾患であるが、その生物学的基盤は明らかでなく、診断や治療は症状と経過に依存している。本研究の目的は、統合失調症の病態機序におけるMIFの役割を明らかにし、治療標的やバイオマーカーとして臨床応用へ展開するための研究基盤を確立することである。H30年度の実験としては、これまでの結果(新生仔C57BL/6マウス皮質由来アストロサイトに各種の抗精神病薬を処置し、MIFの有意な発現増加をmRNA(Q-RT-PCR法)及び培地中蛋白(ELISA法)において見出した)を踏まえ、抗精神病薬によるアストロサイトのMIF発現機構の詳細を解析した。細胞株でMIF発現との関連が報告されている各種の転写因子の阻害剤を投与したところ、現在のところ有意な結果は認めなかった。そこで抗精神病薬の作用機序との関連が報告されているヒストン化学修飾に着目し、ヒストン脱アセチル化阻害剤を投与したところ、MIF mRNAの有意な増加を認めた。さらに抗精神病薬によるMIF発現の分子メカニズムについて、MIFプロモーター領域を対象としたクロマチン免疫沈降(ChIP)法による解析をすすめている。マウスES細胞を用いた実験としては、PA6細胞を用いたSDIA法によるドーパミン神経細胞への分化誘導系を確立し、安定して行っている。ヒトiPS細胞を用いた実験としては、統合失調症患者(特に高率に統合失調症を発症することが知られている22q11欠失症候群患者)由来iPS細胞の樹立と集積を進めている。
2: おおむね順調に進展している
新生仔マウスからアストロサイトおよび神経幹細胞の初代培養系について、安定して細胞培養を継続し実験に使用している。アストロサイトにおいて、各種の抗精神病薬を処置によるMIF発現に関与するシグナル伝達経路の解析を進めている。神経幹細胞においては、MIF処置による表現型(増殖、生存、分化)の解析を進めている。マウスES細胞を用いたドーパミン神経細胞への分化誘導系も確立し、さらに統合失調症患者由来ヒトiPSの樹立と集積を継続している。よっておおむね順調に進展していると考える。
アストロサイトにおける抗精神病薬によるMIF発現増加のシグナルを調べるため、ひきつづき候補転写因子およびヒストン化学修飾の関与について解析する。神経幹細胞については、MIFによる増殖・分化・生存(抗アポトーシス)といった細胞表現型の変化の解析を進める。マウスES細胞を用いたドーパミン神経分化へのMIFの役割の解析、およびそこで得られた知見を踏まえ、患者由来ヒトiPS細胞を用いた解析も進める予定である。統合失調症はありふれた疾患であるが、生物学的機序の解明は遅れている。MIFは、これまで統合失調症との関連について世界に先駆けて我々が報告しており、本研究計画により統合失調症の生物学的解明に大きく貢献できると考える。
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