本研究では腸内細菌プロファイルがうつ病の発症に影響を与える機序を解明し、うつ病の回復や重症化に関連する腸内細菌プロファイルを同定することを目的としている。倫理委員会の承認は得たものの、患者からの同意が得られないことに加えて、新型コロナウイルス感染拡大に伴って、外来の初診患者、入院患者共に著しく減少した。 そのため、細胞を用いた基礎的研究や、他施設共同研究を実施することとした。 一つは統合失調症患者の末梢血中のマイクロRNA(miRNA)-19aおよびmiRNA-19bを測定し、さらに新生マウス海馬由来の神経前駆細胞を用いて、細胞増殖及びアポトーシスへの関与について調べた。その結果統合失調症患者の末梢血中では、miRNA-19bレベルが健常人と比較して有意に高いことが分かった。神経前駆細胞を用いた実験では、増殖を増加させたが、アポトーシスへの影響はないことが示された。これらのことから、miRNA-19bが統合失調症のバイオマーカーとなる可能性、神経前駆細胞の増殖能に影響することで、統合失調症の脆弱性を高める可能性があると考えられた。 もう一つは、他施設共同研究にて、双極性障害とうつ病患者の末梢血中の血小板由来成長因子BB(PDGF-BB)を測定し、これらの疾患を鑑別するバイオマーカーとなるかどうかを検討した研究である。うつ病群では、双極性障害群よりもPDGF-BBが低値であり、今後両疾患を鑑別するバイオマーカーとなりうる可能性があると考えられた。 上記研究を通して、精神疾患におけるバイオマーカーの必要性について改めて痛感した。本研究もストレス反応性のバイオマーカーを示せる可能性があり、その重要性を改めて認識した。症例を集めることができなかったが、今後も何らかの形で研究を継続したいと考えている。
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