研究実績の概要 |
精神疾患は遺伝環境相互作用によって発症すると考えられており、高齢発症では遺伝要因よりも環境要因の関与が大きいことが予想される。高齢者のうつ病は治療抵抗性で自殺率が高く、若年者のうつ病に比して一般的な身体症状のほか、焦燥や心気症状が多いことが知られている。治療抵抗性うつ病の多くは双極性障害へ診断変更されること、焦燥性うつ病は躁転の予測因子となりうることなど考慮すると、高齢者のうつ病患者の中には潜在性の双極性障害患者が含まれている可能性が考えられる。これまでに高齢発症の気分障害を対象としたゲノム・エピゲノム研究に関する報告は乏しく、本研究では双極性障害における遺伝環境相互作用との関連が示唆されているセロトニントランスポーター(SLC6A4)遺伝子に着目し、高齢発症の気分障害におけるゲノム・エピゲノム要因について検討することを目的とした。 約1500名の高齢健常者の末梢血由来DNAを用いて、5HTTLPRの詳細なgenotypingを行い、抑うつ症状との関連を調べた結果、5HTTLPRと抑うつ症状には関連が認められなかった。さらに、高齢健常者と高齢者双極性障害患者各3名の末梢血由来DNAを用いて、Illumina社のHumanMethylationEPIC BeadChipを用いたゲノムワイドなメチル化解析を行い、データ解析にて5643個の遺伝子におけるメチル化差異を同定した。 また、神経細胞特異的にミトコンドリアDNA欠失が蓄積し、双極性障害様の表現型を示すPolg1変異マウスの前頭葉を用いて神経細胞と非神経細胞におけるDNAメチル化変化を調べたところ、神経細胞有意な低メチル化状態や非神経細胞におけるシナプス関連遺伝子のDNAメチル化変化といった双極性障害患者の死後の脳におけるDNAメチル化変化との共通点が見出されたものの、これらの共通点の中にSLC6A4のメチル化変化は含まれていなかった(Sugawara H, et al., Mol Brain 2022)
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