大分大学医学部附属病院高度救命救急センター、および大分県立病院救命救急センターを外傷・中毒、または自殺企図や自傷行為によって受診した患者のうち、20歳以上、かつ生存している患者で同意が得られた患者を対象とした。リチウムを薬として摂取している患者、および統合失調症患者は除外した。血中にはごく微量なリチウムが含まれているが、その濃度の平均値は自殺企図群、自傷群、外傷・中毒群(コントロール群として設定)の順に低く、3群間に有意差を認めた(自殺企図群3.96μg/L、自傷群5.01μg/L、外傷・中毒群5.53μg/L)。 血中リチウム濃度の分布が正規分布をしていなかったため、対数変換をしたリチウム濃度(Log Li)で比較をしたが、同様の順に低く、3群間に有意差を認めた(自殺企図群0.46、群自傷群0.57、外傷・中毒群0.62)。その後の検定(シェッフェの多重比較検定)において、自殺企図群と外傷・中毒群との比較で有意な差を認めた(p=0.022)。 性別や年齢の影響を考慮して、多項ロジスティック解析を行ったが、それらを含めても外傷・中毒群と比べて、自殺企図群のLog Li濃度は低かった。これらの結果からは、水や食物から自然に摂取されるごく微量なリチウムが抗自殺効果をもたらす可能性が考えられる。 また、性ホルモンとの関連についても調査した。女性においては、Log Liと年齢、エストラジオールを含めて、多項ロジスティック解析を行ったが、いずれも有意な差は認めなかった。一方で、男性では、Log Liと年齢、テストステロンを含めて多項ロジスティック解析を行ったところ、自殺企図群のテストステロン値が外傷・中毒患者に比べて低かった。男性ホルモンであるテストステロンは、衝動性や攻撃性に影響するため、自殺企図群では高くなっていると想定していたが、逆の結果であった。
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