老年期うつ病の病態は未だ明らかではないが、その一部は認知・運動・神経症状が出現しない変性疾患、あるいは変性疾患の前駆病態である可能性がある。本研究は老年期発症のうつ病患者を対象にタウイメージングとドパミントランスポーターイメージングを行うことで、老年期うつ病の病態生理の一要因がタウオパチーである可能性、さらにはドパミン機能障害である可能性を検討する。 研究の対象者はICD-10のうつ病エピソードの診断基準を満たす60歳以上のうつ病患者18名とし、[18F]PM-PBB3用い大脳皮質のタウ蛋白集積を評価した。また、そのうち5名には[18F]FE-PE21PET検査も行いパミントランスポーター機能についても検討した。[18F]PM-PBB3では小脳を参照領域として算出し、[18F]FE-PE21PET検査では線条体を関心領域とし、ドパミントランスポーター機能は年齢により低下することが知られているため、先行研究により得られている各年齢での基準値からの変化の割合を用いて検討した。 多くの症例ではタウ蛋白の集積は認められなかったが、一部の患者では軽度の集積を認めた。タウ蛋白の蓄積はうつ病の初発年齢と正の相関がみられ、タウ蛋白の集積に由来する局所神経細胞脱落が、うつ病の中でも老年期に発症する病理に関与している可能性が示唆された。また、タウ蛋白の蓄積とドパミントランスポーター機能には負の相関が認められ、タウ蛋白の集積が線条体のドパミントランスポーター機能の低下と関係していると考えられた。このことからタウ蛋白の集積に由来する局所神経細胞脱落のために生じたドパミン機能の低下がうつ症状の出現や進行に関与している可能性が示唆された。
|