研究課題/領域番号 |
18K15501
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
江崎 加代子 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (20744874)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 精神疾患 / 統合失調症 / 死後脳 / スフィンゴ脂質 / 脂質生化学 |
研究実績の概要 |
統合失調症は、複数の遺伝的要因や環境要因により発症すると考えられており、近年臨床研究よりスフィンゴ脂質が疾患病理に関連する因子の一つとして報告されている。しかしながら、病態と脂質代謝(特にスフィンゴ脂質)の関連や、そのメカニズムに関する詳細な研究は行われていない。統合失調症患者の一群では血中のアミノ酸セリン含量の減少および患者皮膚においてスフィンゴ脂質含量の低下が報告されている。我々はスフィンゴ脂質が病態に果たす役割に着目し、精神疾患患者の死後脳を用いて病態と脂質代謝の関連について研究している。 これまでの研究で統合失調症患者の白質で有意に一部のスフィンゴ脂質の含量が低下していることを明らかにした。そこでスフィンゴ脂質代謝酵素について遺伝子発現変化を検討したところ、統合失調症患者でスフィンゴ脂質分解酵素の遺伝子発現が上昇していた。さらに、統合失調症患者の白質および灰白質で共通してスフィンゴ脂質受容体の遺伝子発現が上昇していた。そこで次に、精神疾患モデルマウスの一つとして報告されている銅キレーター含有餌給餌マウスを用いてスフィンゴ脂質受容体リガンドが精神疾患モデルマウスの表現型にどのような影響を与えるのか解析した。このモデルマウスではミエリン形成に重要なオリゴデンドロサイトのマーカーの発現が低下することが報告されているが、モデルマウスへのスフィンゴ脂質受容体リガンドの投与は一部のオリゴデンドロサイトマーカーの遺伝子発現を完全にではないが有意に回復した。しかし一方で、モデルマウスで発現上昇するニューロン、アストロサイト、マイクログリアのマーカーについてはリガンド投与による変化は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究結果から、統合失調症患者ではスフィンゴ脂質の代謝変化によって神経機能制御に異常が起こり、精神疾患発症脆弱性につながった可能性が示唆された。また、スフィンゴ脂質受容体リガンドを投与したマウスについてメタンフェタミン行動感作試験を行ったところ、受容体リガンドの投与で有意に行動感作が抑制された。そこで次に、スフィンゴ脂質受容体リガンド投与が精神疾患モデルマウスの行動に影響を与えるのか解析を進めることにした。精神疾患モデルマウスの一つとして報告されている銅キレーター含有餌給餌マウスを用い、スフィンゴ脂質受容体リガンドを投与した後に精神疾患様行動への影響および遺伝子発現変化を解析した。銅キレーター給餌マウスの解析では既報にあるような精神疾患様行動変化を再現できなかったが、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、マイクログリア関連遺伝子の遺伝子発現変化は再現できた。このモデルマウスではミエリン形成に重要なオリゴデンドロサイトのマーカーの発現が低下することが報告されているが、モデルマウスへのスフィンゴ脂質受容体リガンドの投与は一部のオリゴデンドロサイトマーカーの遺伝子発現を完全にではないが有意に回復した。
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今後の研究の推進方策 |
銅キレーター給餌マウスで精神疾患様行動異常を再現できなかったため、薬剤の精神疾患様行動異常への効果を検討することができなかった。そこで、本年度は別の精神疾患モデルマウスの作製を検討する。精神疾患モデルマウスの行動異常を再現できたら、モデルマウスにスフィンゴ脂質受容体リガンドを投与してその効果を検討する。また、オリゴデンドロサイト前駆細胞OLP6細胞を用い、スフィンゴ脂質受容体リガンド添加が分化に影響するのか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に作製した銅キレーター給餌マウスで行動異常表現型を再現できなかったため、令和元年度では新たな精神疾患モデルマウスを作製する必要が出てきて必要研究費が当初の予定よりも高額になった。次年度に繰り越した研究費で新たなマウスモデル作製を進める予定である。
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