人口の約1%という高頻度で発症する代表的な精神疾患である統合失調症は、複数の遺伝的要因や環境要因により発症すると考えられており、多くの臨床研究より脂質が疾患病理に関連する因子の一つとして報告している。我々はこれまでに統合失調症患者死後脳の白質(脳梁)においてスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)の含量が有意に低下しており、さらにS1P受容体の遺伝子発現が増加していることを明らかにした。さらに、薬理学的精神疾患モデルマウスにS1P受容体の外因性リガンドを投与すると、一部の外因性リガンドが精神疾患様行動異常抑制効果を示した。そのため、次のステップとして外因性リガンドが精神疾患様行動異常を抑制したメカニズムを明らかにすることを目指して研究を進めた。 そこで本年度は、薬理学的精神疾患モデルであるメタンフェタミン反復投与による行動感作誘導マウスにおいてどのようなメカニズムで行動異常が引き起こされているのか解明するため、マウスの脳組織を採取してRNA-seqによる遺伝子発現変化の解析を行った。脳組織としては脳梁と前頭葉を用いて解析を行った。それぞれの脳組織の遺伝子発現変化についてGene Ontology解析を行ったところ、脳梁や前頭葉においてドーパミン分泌に関連する遺伝子が発現上昇しているだけでなく、酸化ストレス応答や神経炎症シグナル、ミトコンドリア機能不全に関連する遺伝子などの発現も上昇していた。これらの結果から、メタンフェタミン反復投与によって引き起こされるこれらの変化にS1P受容体の外因性リガンドが影響を与え、精神疾患様行動異常の抑制につながった可能性が示唆された。
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