神経発達障害のひとつである自閉スペクトラム症(ASD)では様々な認知機能障害が生じるが、その中の一つとして遂行機能障害があり、さらには自閉スペクトラム症の中核的な症状と密接に関連することが示されている。そこで本研究では、多様な遂行機能を網羅的に測定するための検査バッテリーと脳画像を用いて自閉スペクトラム症における遂行機能障害の神経学的基盤を明らかにすること目的とする。 研究参加者はASD者11名、定型発達者(TD)37名で、参加者から認知機能検査、および脳構造画像のデータを取得した。統計解析では、両群で認知機能検査の成績を比較し、その差に脳の構造的差異がどのように関わっているかについて検討を行った。 両グループの認知機能検査の遂行成績を比較した結果、ASDグループで視空間ワーキングメモリ課題の遂行成績が有意に低下していた。また、認知的制御課題およびぷラニング課題においては両グループで遂行成績に差が認められなかった一方で、ASDグループにおいて有意な課題遂行時間の遅延が認められた。また、これらの認知機能の遂行成績にかかわる差異との、脳構造との関連を検討した結果、右上前頭回の白質体積のおよび左島の拡散異方性係数が課題に対する反応の遅延と相関が認められた。これらの脳構造に関する指標はASDグループとTDグループにおいて有意な差が認められており、当該領域における白質の構造的差異がASDにおける遂行機能の障害に関与していることが示唆された。
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