研究課題
2018年度は、本研究のプロトコールに沿ったMRI撮像、臨床評価を既に終えている、4大学で連携して蓄積した被験者データ [At-risk mental state (ARMS) 群107例と健常対象者 (Healthy controls: HC) 104例] を対象にMRIデータ解析を行った。画像解析ソフトFreeSurfer (ver.5.3) を用いてMRIデータの半自動前処理を行い、関心領域である皮質下諸核 (視床、尾状核、被殻、淡蒼球、海馬、扁桃体、側坐核) および側脳室の体積を計測し、関心領域毎に側性指数 (laterality index: LI) も算出した。統計学的解析は統計ソフトStatisticaの一般線形モデルを用い、平均体積値、平均LI値の群間比較を行った。群間比較は、1) ARMS群とHC群、2) ARMS群のうち、のちに精神病性障害に移行した群 (ARMS移行群) と移行しなかった群 (ARMS非移行群)の2通りを行った。ARMS群はHC群と比べ、有意な両側側脳室、左尾状核の体積増加と右側坐核の体積減少を認めた。男性被験者に限ると、ARMS群はHC群と比較して、有意に左淡蒼球の体積増加を認めた。また、ARMS群はHC群に比べて、有意に側脳室、尾状核、淡蒼球のLI値の高値 (左側優位) を認めた。追加解析を行い、ARMS群を未服薬例64例に限っても、左側脳室、左尾状核の体積増加および側脳室、尾状核、淡蒼球のLI値の高値は有意であった。一方、ARMS移行群とARMS非移行群間では、平均体積値、平均LI値共に有意な差異を認めなかった。これらの結果から、ARMS群における左側優位の側脳室、尾状核、淡蒼球の体積増加は、抗精神病薬による影響だけでは説明されず、精神病性障害への全般的な脆弱性に関わる脳形態変化を表している可能性があると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
比較的多数例のARMS群を対象にMRIデータ解析を行い、ARMS群における皮質下領域の形態変化に関する頑健な知見を得られたため。
本年度の予備的解析においてARMS群全体における皮質下領域の形態特徴を同定したものの、ARMS移行群とARMS非移行群間の比較では脳形態に有意な差異は認めなかった。一つの原因として、ARMS非移行群 (72例) に比べてARMS移行群 (21例) はサンプル数が少ないことが挙げられる。そのため、今後は被験者の新規リクルートと既にベースラインの撮像・臨床評価を終えている被験者の追跡を継続し、サンプル数を増やして再度MRIデータ解析を試みたい。また、ARMS群における皮質下領域の形態変化の機能的意義を明らかにするため、関心領域毎に平均体積値、平均LI値と認知・社会機能の評価指標との関連を調べる予定である。その相関解析を進めるに際し、現在4大学で協力して統合失調症認知機能簡易評価尺度得点などの臨床情報を収集中である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
Schizophrenia Research
巻: in press ページ: in press
10.1016/j.schres.2018.11.032.
Frontiers in Psychiatry
巻: 9 ページ: 574
10.3389/fpsyt.2018.00574.