自閉スペクトラム症(ASD)児に特異的な対人交流特性を脳生理学的指標から捉えることを目的とし、世界唯一の,小児・成人用脳磁図(MEG)同時計測システムを用いて,親子の自然な交流場面の脳活動を測定した。ASD幼児およびTD幼児とその母親を対象に,①課題中のMEG計測,②認知機能発達評価,③自閉症症状の行動観察評価,④コミュニケーション能力を評価する質問紙などから得られたデータを総合的に検討し,ASDに特徴的なコミュニケーション障害に関連する神経ネットワーク機構を解明することを目的に本研究を行った。最終年度の研究成果として、絵本読み聞かせ課題中のTD幼児のMEGデータを絵本の読み手が幼児自身の母親条件と他人条件の2条件で比較検討を行った。脳内ネットワークの評価として、グラフ理論を用いた脳部位間の結合性解析を行った。今回の解析では、脳領域を68部位に分け、Node Degreeを脳結合性の指標とした。結果から母親の読み聞かせ条件では、他人の読み聞かせ条件に比べてアルファ及びベータ帯域の脳内ネットワーク結合指数が全脳レベルで上昇していることがわかった。この結果を取りまとめた論文を現在投稿中である。本研究期間では解析に耐えうるASD幼児の脳データが充分に収集できなかったため、今後の展望では追加のデータ収集を行い、ASD幼児とTD幼児の脳ネットワーク比較を行いたい。 これまで、読み聞かせ中の幼児の脳機能研究はNIRS(近赤外線スペクトロスコピー)やfMRI(機能的脳磁気共鳴画像)を用いて行われているが、MEGを使用した研究はあまりない。なおかつ本研究はMEGデータ解析にグラフ理論によるネットワーク解析を応用した点に新規性と発展性がある。
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