研究課題
自閉スペクトラム症と統合失調症は共通の遺伝学的基盤をもつ多因子疾患であり,様々な病態を内包する.すでにいくつかの遺伝子と両疾患の強い関連が知られている.本研究計画はcommon disease, rare variant (CDRV) 仮説に基づいて,頻度が低いが疾患への関与が大きいゲノム変異を起点に,遺伝子型に基づいた疾患横断的な分類の再構築を目指す.今年度はGLO1遺伝子とFBLIM1遺伝子に着目した.GLO1は酸化ストレスに関わるタンパク質であり,統合失調症との関連において複数の報告がある.日本人患者562人のゲノムからタンパク質をコードする領域の変異を探索した.健常者データベース(iJGVD 3500人・ExAC 6万人)を参照して頻度1%未満の一塩基変異を抽出したところ,一つのフレームシフト変異が同定された.日本人サンプルで関連解析を行ったところ,患者群・健常者群双方に一定の頻度で見出された.以上の結果から,本フレームシフト変異は精神疾患に直接影響を及ぼすというよりは,日本人集団におけるpolymorphismのひとつと考えるのが妥当と考察した.FBLIM1は細胞接着・細胞骨格の保持に関わるタンパク質である.重度の神経発達症患者でFBLIM1遺伝子をコードする領域を含む欠失を同定した.精神障害を深く理解するためには欠失の影響を明らかにする必要があると考え,基礎研究者と連携して分子生物学的解析を行ったところ,脳神経系発達早期の神経細胞移動に寄与している可能性が示唆された.以上2つの成果は国際学術誌にて発表した.さらに,精神疾患の遺伝学的知見を臨床に還元する遺伝カウンセリングの実際を,日本児童青年精神医学会学術集会にて報告した.
2: おおむね順調に進展している
得られた研究成果は英文学術誌への発表により広く社会に還元することができた.さらに,臨床との橋渡しを目指して国内学会での発表を行い,児童精神科領域に関わる専門家に向けて遺伝カウンセリングの意義を伝えることができた.
本年度はNRXN1に着目した解析を計画している.より詳細な臨床症状の評価法を確立して遺伝子型と表現型を結ぶ研究を進め,genotype-to-phenotypeの実現を目指す.さらに,遺伝が精神療法の一部として話題にできるような精神科臨床を目指して,遺伝カウンセリングを実践する.これらの試みについては,日本語論文・学会発表・地域での講演会などを通じて,より幅広い国内への還元を目指す.
申請当初に予定していたWCPG(世界精神遺伝学会)2018・英国が,諸般の事情で参加できなかった.国際学会参加による最新情報の収集や新たな視点の獲得は研究遂行に不可欠である.そこで今年度,WCPG2019・米国に参加して研究成果の発表を行い,結果の考察や新たな視点を得ることを予定している.また,近接領域の学術集会から得られる知見は,患者の臨床表現型の把握や病態の理解を助ける.今年度は名古屋において,The 20th annual meetings of infantile seizure society・第61回日本小児神経学会学術総会,日本睡眠学会第44回定期学術集会,The 13th world congress of the international cleft lip and palate foundation CLEFT 2019・第59回日本先天異常学会が行われる.てんかんや睡眠障害,口唇口蓋裂などの先天奇形は本研究課題が対象としている自閉スペクトラム症や統合失調症に高率に並存することが知られている,これらの学術集会はいずれも5-7月に開催され,得られた知見を今年度中の研究成果に反映することは十分に可能と考える.本来翌年度分として請求した研究費は,当初の予定通り,研究協力者への説明文書やゲノム解析の試薬購入,英文校正や論文投稿料等に必要である.
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
J Neurosci Res
巻: 5 ページ: 789-802
10.1002/jnr.24194
Psychiatr Genet
巻: 28 ページ: 90-93
10.1097/YPG.0000000000000204
Translational Psychiatry
巻: 8 ページ: 129
10.1038/s41398-018-0177-8