産後うつ病の病態解明は喫緊の課題となっているものの、分子基盤研究は圧倒的に不足している。産後うつ病の病態を忠実に再現する動物モデル開発も十分行われていない。本研究の第一の目的は、産後うつ病発症の分子機序を明らかにすることである。ストレス負荷されたげっ歯類動物はうつ病のモデルとして考えられている。しかしながら、既存のうつ病モデル動物は主に肉体的ストレッサーへの曝露に依存しており、肉体的ストレスによる影響が排除できず、また、妊娠中のマウスに肉体的に強度のストレスをかけることができないということが産後うつ病のモデルを作成する上での課題となっている。本研究では、肉体的なストレスはかけず、情動的なストレス(Emotional Stress)を加えるという方法を用い、新たなモデルがうつ病モデルマウスとして使用可能かどうかを検討した。ストレス脆弱性を有するBALB/c雄マウスに視覚・聴覚情報を利用した情動的ストレス負荷を1日5分間、7日間連続で行ったところ、Emotional Stress群ではストレス負荷をしないControl群と比較してうつ様行動を示した。同様のストレスを雌マウスに加えたところ、Emotional Stress群ではControl群と比較してうつ様行動を示した。さらに、出産後の雌マウスでもEmotional Stress群ではControl群と比較してうつ様行動を示した。以上の結果から、Emotional Stressは産後うつ病モデルマウス作成に有用であることが示唆された。
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