研究課題/領域番号 |
18K15521
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
高松 岳矢 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90801431)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 双極性障害 / iPS細胞 / 神経分化誘導 / 疾患モデル / モデル細胞 / 気分障害 |
研究実績の概要 |
研究開始時までにある双極性障害と反復性うつ病の多発する家系で疾患と強く共分離するハプロタイプを発見し、原因候補変異の絞り込みとiPS細胞樹立に成功していた。本研究は双極性障害iPS細胞モデルを確立することを目的とし、本家系の罹患者由来iPS細胞を用いて、in vitro神経分化誘導系により双極性障害の神経細胞表現型を明らかにすること、そしてゲノム編集技術により、家系にみられるゲノム変異と表現型の関係を示すことを目指している。 まず、iPS細胞の分化誘導系を検討した。本家系における気分障害の候補遺伝子Aに着目し分化誘導の標的細胞種の検討を行った。ヒト脳の遺伝子発現データベースから遺伝子Aが特徴的な脳局在を示すことがわかり、また双極性障害に関連を示唆されるある領域に多く分布していた。そこで、はじめにiPS細胞を遺伝子Aの発現する領域の細胞に分化誘導を試みた。 各種化合物を添加しiPS細胞を神経幹細胞へ分化誘導し、ニューロスフェアを継代したのち、分散して接着培養することで神経細胞を誘導した。qRT-PCRで遺伝子Aの発現を確認した。市販抗体を用いて免疫細胞染色を試みたが、特異的な染色像が得られず、遺伝子Aが発現している細胞は不明であった。 つぎに家系内双極性障害患者と健常者のiPS細胞由来神経細胞の自発的興奮を蛍光標識指示薬を用いたカルシウムイメージングで比較した。仮説では家系内双極性障害患者由来神経細胞は細胞内カルシウム濃度変化が高い頻度で観察できる。実際に双極性障害由来細胞の自発的興奮は亢進しているような結果を得ることができた。しかし、本実験に用いた培養方法では、細胞密度を均一にすることが困難で、また誘導されるニューロン/グリアの比も変動したため、再現性を考えると報告期間内に結論を出すことができなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画のとおり、平成30年度にiPS細胞分化誘導系の条件検討とカルシウムイメージングを行い、部分的に目標を達成できた。 iPS細胞から神経細胞への分化誘導は成功した。一方で、候補遺伝子Aに着目したアプローチをとったため分化誘導系の評価には遺伝子Aの細胞免疫染色を行いたかったが、染色はうまくいかなかった。抗体が機能しなかったと考えられる。 分化誘導神経細胞でカルシウムイメージングを行い、予備的な結果を得ることができた。同時に培養細胞の密度、ニューロン/グリア比など、実験条件の安定化に課題を認めた。 また、平成30年度にはゲノム変異編集用のターゲッティングベクター作成を計画していた。着手したもののクローニング過程に難しいところがあり、ベクター作成については予定よりも遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は(1)分化誘導方法の再検討とカルシウムイメージング、(2)家系内双極性障害患者iPS細胞の遺伝子A変異の修復、(3)遺伝子Aの抗体作成を行う。 (1)分化誘導方法の再検討とカルシウムイメージング: ニューロスフェアを用いる方法のほか、ウイルスベクターを用いたリプログラミング法も試す予定である。 (2)家系内双極性障害患者iPS細胞の遺伝子A変異の修復:遺伝子Aには3つのミスセンス変異があるため、すべてを修復するためには繰り返しサブクローニングが必要になる。またiPS細胞の継代数が進むと核型異常が生じやすいため、最終的に作成した修復株が核型異常で不適になるリスクもある。できるだけ注力し、研究期間内の完了を目指す。 (3)遺伝子Aの抗体作成: 遺伝子Aの発現細胞種を明らかにするため、抗体を作成する。これまでに遺伝子Aのコード配列のクローニングは終えているので、蛋白質発現ベクターに遺伝子を挿入し、動物に免疫を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度はゲノム修復用ターゲットベクターの作成が遅れたため、予算に計上していた修復株作成時の細胞培養用の物品費を使用しなかった。次年度に当該助成金を用いて実験を行う。
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