本研究課題は、、時計遺伝子Bmal1がコリン作動性ニューロン(ChAT)特異的にKOされたマウス(ChAT-Bmal1 KO)を作成し、生体リズムと気分障害を繋ぐ分子メカニズムの解明に迫った。しかしながらオープンフィールドテストおよび高架式十字迷路による不安様行動、強制水泳テストによるうつ様行動には明確な差を確認することができなかった。そこで原点に立ち返り、アクトグラムを用いて行動のサーカディアンリズムにBmal1 KOの影響がそもそもあるのかを確認したところ、行動のリズム減弱を示したことに加えて、活動期(暗期)における行動量の減少という興味深い知見が得られた。そこで睡眠覚醒異常への影響を確認するため、ペントバルビタール睡眠誘発試験を行ったところ、睡眠持続時間が優位に延長された。このことからChAT-Bmal1 KOマウスは覚醒に異常をきたす可能性が考えられた。そこでコリン合成部位であるマイネルト基底核(BM)のアセチルコリン合成に関わる遺伝子の発現を解析したところ、コリン輸送体であるSlc5a7発現増加傾向および覚醒調節に関わるオレキシン受容体Hcrtr2発現に有意な増加がみられた。また、睡眠覚醒と深く関わるオレキシンの投射先である前頭前皮質(PFC)においても、Hcrtr1発現増加傾向がみられた。以上から、コリン作動性神経における時計遺伝子Bmal1は、情動機能には影響は無いものの、BMにおけるコリン作動性神経機能調節を介して、アセチルコリンの投射先であるPFCのオレキシン神経系に作用し、覚醒を調節する可能性が示唆された。
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