本研究の目的は、統合失調症の患者と対面した時、観察者のうちに起こる一種言いようのない特有な感情であり、病者の対人接触本能の減弱によって喚起される、独特の「内的不確実感」と表現されるプレコックス感(Praecox feeling)を、機能的MRI(fMRI)を用いた客観的な指標としての脳活動を探索することであった。そのため、1)統合失調症患者および健常者からの動画データの収集、2)動画を基にしたプレコックス感課題の作成、3)医師ならびに非医療者である対象者へのfMRI撮像、4)統計学的解析によるプレコックス感と関連する脳活動領域の同定、の4段階を設定して本研究を進めた。医師と非医療者のリクルート及びfMRI撮像を中心に実施していく予定であった。しかしCOVID-19の影響拡大により医療者を他施設に招聘することが不可能となり、またMRIについても研究目的の撮像を施設として控える要請があったため、計画の実施が困難となった。そのため、脳画像評価に用いることが可能となるようにコントロール課題の設定と提示時間の試行を重ね、行動実験の結果を集積することとした。さらに関連する論文のレビューを行い、プレコックス感の機序に関する論文化への準備を進めた。一方で、検討を重ねていく中で、表情や顔貌、仕草といった個人特有の印象を与える多様な特徴があるため汎化することが難しいこと、また精神疾患へのスティグマを助長する可能性についても問題視すべきであると議論された。
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