研究課題/領域番号 |
18K15532
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
森屋 由紀 公益財団法人東京都医学総合研究所, 精神行動医学研究分野, 研究員 (50783528)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ケタミン / 行動感作 / 依存症 / 性差 / ストレス / オピオイド受容体 / 再燃 / 抗うつ |
研究実績の概要 |
薬物依存症は、現代社会において医療的・社会的に深刻な問題である。近年、がん治療や手術後のオピオイド系鎮痛剤使用からオピオイド依存を発症し、過剰摂取による多数の死者が報告されており、非常に大きな問題となっている。高い再発症の神経・分子メカニズムを明らかにすることは、再燃に対する予防策や治療法の開発につながり、薬物依存研究において最も重要視されている。これまで臨床研究や多くの動物実験から、ストレス負荷が退薬後の薬物渇望の再燃や薬物依存症への脆弱性を引き起こすことが知られている。ストレスによって引き起こされる精神疾患症状は多岐にわたっており、個々の生活に影響を与えるだけでなく社会に非常に大きな損失を与えている。 2007年より麻薬指定されたケタミンは、臨床現場で麻酔薬として使用されている。ケタミンのもつNMDA受容体に対する拮抗作用が、麻酔・鎮痛作用の主たる原因である。近年、「オピオイド危機」に伴い、ケタミンの術中使用が再び注目されている。ケタミンは麻酔量以下の投与量で、オピオイドへの耐性形成を減少させ、手術後のオピオイド誘発痛覚過敏を減少させる可能性を示唆する報告がある。 オピオイドの標的受容体にはμ受容体(MOP)、δ受容体(DOP)、κ受容体(KOP)の三種類が存在している。ケタミンはオピオイド受容体にも弱い親和性を有する。 本年度は、雌雄差の観点から、野生型(WT)およびオピオイド受容体欠損マウスにおけるケタミン誘発行動感作に対するオピオイド受容体の影響と長期的な心理社会的隔離ストレスの相互作用を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の実験結果から、κオピオイド受容体欠損マウスでは心理社会的隔離ストレスによる影響が雌雄で異なり、ストレス負荷雄マウスは雌マウスに比べ有意にケタミンによる行動量が減少していた。ストレス感受性やケタミンの効果にκオピオイド受容体が関与している可能性が明らかとなった。 現在、δオピオイド受容体欠損、μオピオイド受容体欠損マウスを用いた同様の実験を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
ケタミンは低用量で使用した際に呼吸抑制を起こす可能性が低いため、比較的安全な薬とされている。オピオイド以外の疼痛薬を必要とする慢性疼痛患者が増加している。さらに、ケタミンは重度のうつ病患者や自殺願望にも即効性の効果があることが報告されおり、治療における少量投与の実用性が高まってきている。 依存の形成過程にも性差があることが徐々に明らかになってきており、性別に適した治療法を確立することが求められてきているが、多くの基礎研究は雄のモデル動物を用いて行われているのが現状である。 今後はストレス感受性や疼痛薬の雌雄差を、δオピオイド受容体欠損とμオピオイド受容体欠損マウスを用いて解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行した。当初の見込み額と執行額は多少異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の経費も含め、当初の予定通りの計画を進めていく。
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備考 |
公益財団法人 東京都医学総合研究所 精神行動医学研究分野 依存性物質プロジェクト http://www.igakuken.or.jp/abuse/
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