研究課題
児童虐待に代表される幼少期の過剰なストレスは、抑うつや社会性の問題を症状に持つ精神疾患の発症リスクを増加させる。しかし、その神経メカニズムについては未だ不明な点が多い。一方、児童虐待を経験した患者において、情動制御に重要な眼窩前頭皮質(OFC)と扁桃体間の結合性の異常が報告されている。前頭葉-扁桃体投射経路は幼少期に発達するため、幼少期ストレスがOFC-扁桃体回路の発達に悪影響を及ぼすとことで、成熟後の情動異常を招く可能性が示唆される。本課題ではこの可能性を検討するため、マウスに対する幼少期ストレスが、OFC-扁桃体外側基底核(BLA)経路のシナプス伝達に与える影響を調べた。まず、幼少期隔離飼育ストレスマウスにおけるOFC-BLAシナプス機能の評価を行った。隔離飼育を行ったマウスは、集団飼育群に比べ、社会性の低下・うつ様行動の増加などの行動異常が観察された。加えて、隔離マウスでは、眼窩前頭皮質内側部(mOFC)からBLAに投射する経路(mOFC-BLA経路)のAMPA/NMDA電流比が低下した。対して、眼窩前頭皮質外側部(lOFC)からBLAに投射する経路(lOFC-BLA経路)においては、AMPA/NMDA電流比が増加するといった興味深い結果が得られた。次に、これらのシナプス機能の変化と隔離マウスが示す行動異常との因果関係を明らかにするため、自由行動化のマウスのmOFC-BLA経路またはlOFC-BLA経路のシナプス伝達を光遺伝学的に操作し、行動への影響を検討した。その結果、mOFC-BLA経路の神経伝達は社会性を制御する一方、lOFC-BLA経路の神経伝達はうつ様行動を制御することが明らかとなった。これらの結果より、幼少期の隔離飼育ストレスはmOFC/lOFC-扁桃体経路のシナプス発達に異なる影響を与え、社会行動/うつ様行動の異常を引き起こす可能性が示唆された。
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https://www.ncnp.go.jp/topics/2020/20200521.html