研究実績の概要 |
脳内の主要な構成細胞の一つであるアストロサイトは、中枢性疾患において「反応性アストロサイト」となり病態に関与することが示唆されている。本研究課題では、反応性アストロサイトの関与が未知であるうつ病においても、病態特異的な反応性アストロサイトが存在するのではないかと仮説を立て、検証することを目的とした。本年度は以下の結果を得た。 過去の報告(Moreno-Fernandez et al.2017)からLPA1受容体ノックアウトマウスがうつ病様行動を示すことが報告され、また過去の我々の報告よりアストロサイトのLPA1受容体が抗うつ薬の効果発現に重要な受容体であることを見出している。脳内におけるLPA1受容体がアストロサイトに発現しているか、また、アストロサイトには様々なアストロサイトマーカーがあるが、複数のアストロサイトマーカー発現細胞で均一に発現しているか、LPA1ヘテロKOマウスを用いて免疫染色法を用いて検討した。その結果、マウス脳内におけるLPA1受容体の約60%がオリゴデンドロサイトに発現しており、残りの約20%がアストロサイトに発現していることを明らかにした。複数のアストロサイトマーカー(ALDH1l1,GFAP,S100B)で検討したところ、ALDH1l1陽性細胞とGFAP陽性細胞はほぼ同じようなLPA1受容体発現分布を示したが、興味深いことに小脳におけるS100B陽性細胞はより多くの細胞がLPA1受容体を発現していた。以上の結果から、うつ病の病態に関与する可能性のあるLPA1受容体の多くがオリゴデンドロサイトとアストロサイトに限局して発現しており、さらにS100B陽性アストロサイトが病態への関与が示唆されるアストロサイトの亜種団として示唆された。
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