近年の画像診断の進歩においても腸管虚血の早期診断は難しく、死亡率は数十年低下していない。また診断後、外科的手術において虚血が解除された後も回復しない腸管は切除の対象となるが、術中にその予後の予測は外科医の主観、非定量的な判断に委ねられており、高度な臨床経験を要求される。本研究では近年普及しつつある光音響イメージングを用いて生体内における組織内酸素飽和度の可視化及び定量化を行い、その腸管虚血との関連を評価すること、虚血を解除された腸管の予後を定量的、客観的に評価する方法の確立を目的とした。 虚血・再灌流腸管の評価のもとになる絞扼性イレウスを模したラットモデルを作成し、その虚血時間の長さによりコントロール群、軽症虚血群および重症虚血群を設定、虚血中および再灌流後に光音響イメージングを用いて腸管の組織酸素飽和度をモニタリング、再灌流後にカテーテルによる上腸間膜動脈のデジタルサブトラクション血管造影を施行し、組織サンプルを採取した。HE染色で病理組織学的所見を評価、組織障害の程度をScore化し、加えて血液検査・局所腸管の乳酸値も測定した。 軽度虚血群の場合には再灌流後早期に組織酸素飽和度がベースライン近くまで回復するのに対して、重症虚血群ではその傾向が見られなかった。病理組織学的な障害度に関しても重症虚血群では不可逆的な障害を負っていた。各時点での組織酸素飽和度と病理学的な重症度に関して、1分後・5分後・10分後・30分後・60分後の組織酸素飽和度はいずれも病理学的重症度と有意に高い相関を認めており、観察したい腸管における再潅流後の酸素飽和度が低いほど病理学的に強い障害を反映すると考えられた。よって、再灌流後の虚血腸管の組織酸素飽和度を評価、経時的な変化を確認することで、任意の部位における不可逆的な虚血障害を予測できる可能性が示唆された。
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