本研究は内部被ばく核種が生体内でどのような挙動をしているかを分子イメージング技術を用いて視覚的・定量的に解析することを目指すものである。これまで マウス体内におけるヨウ素の動態は論じられてきたが、実際に放射性ヨウ素の導体を経時的に画像化した報告はない。同一固体を生きたまま継続的に観察および定量できることが分子イメージングを用いる本研究の強みである。
前年度はヨウ化カリウム(安定ヨウ素剤)を防護剤として使用し、ヨウ素-131投与の4時間前に防護剤を投与することでおよそ80% の防護効果を得られることが分かった。血管内に投与したヨウ素は体内動態が早く集積または排泄にかかる時間が非常に短いことから、投与経路が変わることで放射性ヨウ素の体内動態および防護剤の効果も大きく変化することが想定された。 本年度は実際の内部被ばくを想定し、放射性ヨウ素を胃内に直接投与する手法を用い、体内分布の傾向と防護剤による動態変化をsingle photon emission computed tomography (SPECT)で経時的に追跡した。その結果、放射性ヨウ素を胃内投与したマウスでは、甲状腺集積量が最大になるまでの時間が長くなり、消化管内への残留が長時間にわたって観察された。防護剤を投与したマウスでは80%の甲状腺集積阻害率が認められ、血中投与時と大きく変化しなかった。消化管の残留は防護剤の有無に関わらず放射性ヨウ素投与後6時間まで認められた。 以上の結果から、実際の災害時に放射性ヨウ素を経口接種した場合、甲状腺集積の防止に加え、消化管からの速やかな排泄が課題になると考えられる。消化管内の内容物に付着・浸透することで体外排泄の妨げになっているため、消化管に入った放射性ヨウ素を捕捉し、再吸収と付着を抑制する手段が必要となる。
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