研究実績の概要 |
汎用放射線輸送コード(PHITS)によってマクロな吸収線量計算を行い、CT画像から体内での放射線エネルギー付与を求めた。 さらに、DNAレベルでの損傷を把握するため、nmスケールまで放射線を追跡可能なプログラムであるGeant4-DNAを用いて電子線の解析を行った。これにより、上記PHITSシミュレーションで求めた体内エネルギー付与から生じるDNA損傷を推定した。 また、WI-38細胞株に対しX線を照射した系を用いて、シミュレーションモデルを構築した。実験では、X線照射エリアと非照射エリアを区別し、照射後2, 6, 10, 15, 30, 60, 180, 360分のタイミングでγ-H2AX assayによりDNA二本鎖切断を観測した。この実験系で、放射線照射後の照射エリアからの距離とDNA損傷が生じた時間の関係(DNA損傷ダイナミックス)が得られた。この実験データをもとに、細胞間シグナル伝達のモデル化を行った。細胞間では放射線がヒットした細胞と、ヒットしない細胞との間にシグナル伝達が起こり、放射線効果の修飾が生じるため、細胞間シグナル伝達シミュレーションによって、細胞に対する放射線線量に対する放射線影響の波及範囲を推定した。 上記、体内での吸収線量計算、DNA損傷シミュレーション結果に対し、細胞間ネットワークシミュレーションを統合する環境の開発を進めた。 シミュレーションは培養細胞にX線を照射した実験結果に対しパラメータの最適化を試みているが、他の線種に対してもフィッティングを行い、そこから新たな知見を得る予定である。
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