研究課題
高精度放射線治療の一つである強度変調放射線治療(IMRT)では治療前に実測による検証を実施する。しかしながら、3次元線量分布の実測は難しく、治療範囲全体を通した検証をすることはいまだ困難である。また、IMRTでは複雑な機器動作を伴うため、線量分布の測定と共に治療機器の動作も捉えられれば、詳細な検証を行うことができ、より安全で正確な放射線治療の提供に繋がる。申請者は新たにプラスチックシンチレータ(PS)から得られるシンチレーション光を外部からCCD(Charge-Coupled Device)カメラを用いて取得することで、3次元線量分布並びに機器動作を同時に測定できる検出器を提案した。H30年度の実施内容と成果は以下の通りである。1)試作機の制作:円柱状PSと冷却CCDカメラから構成される試作機を制作した。放射治療機のX線照射に対して、十分な光量でシンチレーション光を観測できることを確認した。2)収集光量の特性評価:CCDカメラで収集されたシンチレーション光の光量(収集光量)と吸収線量の間には直線関係が認められ、収集光量から吸収線量を評価できると確認した。3)線量分布検証:強度変調放射線治療専用装置を用い、CCDカメラで測定したシンチレーション光の光量分布と治療計画装置から得られる線量分布を比較した。PS内におけるシンチレーション光の散乱を考慮することで1%以内の精度で線量分布の検証が行えると分かった。4)マルチリーフコリメータ(MLC)の動作検証:フレーム毎に記録されたシンチレーション光の時間変化からMLC動作を求め、治療計画のMLC動作と比較した。97%以上の感度・特異度並びに2%以内の精度でMLC動作を測定できることが分かった。H30年度の研究成果から、十分な精度で線量分布並びにMLC動作の測定が行えることが分かった。以上の結果は国内学会にて発表した。
2: おおむね順調に進展している
H30年度は研究計画に則し、試作機の制作、CCDカメラで得られるシンチレーション光の特性評価、光量分布測定並びに補正法の検討、線量分布との比較、放射線治療機器の動作測定、機器動作の比較法の検討を行い、十分な精度を有していることを確認した。大凡順調に研究開発が進んでいるため、自己点検評価を「(2)おおむね順調に進展している」とした。
引き続き申請書の予定に沿って研究を推進する。今年度は昨年度に研究開発した試作機を深さ方向の情報が取得できるように改良を加え、3次元線量分布を基にした線量検証法に関して検討を行っていく。また、MLC動作以外の機器動作の取得法や検証法に関しても検討を行っていく。医学物理学、放射線腫瘍学、基礎物理学の専門家を含めた協力体制の上で研究開発を遂行する。
H30年度の研究費でCCDカメラや再構成を行うためのソフトウェアを購入する予定であった。しかしながら、現有のCCDカメラを利用した試作機の評価によって、十分な精度を有していることが判明したため、CCDカメラ等の購入を見送り、当該研究費が生じた。H31年度では3次元線量分布測定のための試作機の改良を行う予定である。基礎検討において精度が不十分な場合には、当該研究費を用いて本検出器に適したCCDカメラを購入する予定である。また、総合試験における消耗品にも使用する予定であり、当初予定していた購入物品とは大きな変更は生じない。H31年度は最終年度のため、これまでの成果のとりまとめとして、国際会議や論文などでの報告を積極的に行っていく。そのため、国際会議や学会・研究会等への参加登録費・出張旅費にも利用する予定である。
すべて 2019 2018
すべて 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件)