本研究は,現在最も高精度な線量計算エンジンであるモンテカルロ(MC)コードを用いて陽子線治療に潜在する医学物理学的課題を解決することを目指すものである.線量評価ツールとして,ユーザー自由度の高いモンテカルロ型線量評価システムTsukuba-Planを用いた. 前年度は,MC計算を実行するために必要な患者個々の照射条件(ビーム輸送系と呼ばれる多数の精密器具)を,きわめて正確に反映した計算体系の構築を行い,MCコードによって二次元の線量分布を計算した.得られた計算値を実測値と比較することで,構築した計算体系の妥当性を検証した.種々のビーム条件(エネルギー,SOBP幅)に対する検証作業により,実測値を再現し得る最適な計算用物理パラメータを導出した. 今年度は,前年度に構築した線量評価体系を活用し,種々の線量評価を実施した.まず,陽子線治療ビームを照射した際に副次的に生じる様々な二次粒子(中性子やフラグメント粒子)の割合を,ビーム照射条件の違いごとに評価した.また,線量のみでなく,従来3次元的に計算することが困難であったビームの線質についても計算することに成功した.次に,Tsukuba-Planとリンクさせ,臨床的陽子線治療ビーム(全ての照射パラメータを反映)を小児ファントムに照射した場合の,3次元線量評価を実施できる基盤を完成させた.このプラットフォームを用いることで,2つの照射野を繋いで照射する場合に課題となる,繋ぎ目付近の線量評価をTsukuba-Planで実施し得る環境を整えた.さらに,陽子線治療ビーム照射により副次的に生成するさまざまな二次粒子の空間分布について,小児ファントム内で3次元的に評価することを可能とした.本評価基盤は,小児陽子線治療における被ばく線量を,3次元的かつ粒子種別に評価することを可能とし,将来的にはリスク評価に活用することができると考えられる.
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