研究課題/領域番号 |
18K15608
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
有光 健治 京都薬科大学, 薬学部, 助教 (50707693)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 膵β細胞 / ストレプトゾトシン / GLUT2 |
研究実績の概要 |
現在、糖尿病は慢性高血糖のみによって診断されているが、その高血糖の原因とされている「膵β細胞のインスリン分泌障害」の発症を可視化する技術が開発できれば、これまでより早期に糖尿病の改善措置に移行できる新たな診断基準が確立でき、糖尿病患者の増加の抑制に繋がると期待できる。一方、生活習慣病の環境因子である高脂肪食負荷時に、膵β細胞のグルコース応答性インスリン分泌のグルコース取り込みを担う糖輸送担体GLUT2の膜表面上における発現が低下することが報告されている。そのため、膵β細胞のGLUT2発現量の変化は、その機能レベルの指標になると考えられる。本研究では、膵β細胞の機能異常を血糖値の変化よりも早期に発見できるインビボ核医学診断法の確立を目指して、GLUT2選択的に取り込まれる放射性標識PET用分子イメージングプローブによってインビボで膵β細胞の機能レベル(グルコース刺激によるインスリン分泌能)を評価できる方法の開発を検討した。 平成30年度は、GLUT2を介して膵β細胞に取り込まれることが知られているグルコサミン誘導体のストレプトゾトシン(STZ)を母体化合物とし、陽電子放出(PET)核種である18Fを合成ルートの後半に導入することを考慮して化合物の設計・合成を行った。検討の結果、2種類の非放射性標識STZ誘導体STZ-AMF および STZ-BMFを合成した。さらに、その放射性標識体の合成を検討し、実際にその2種類の放射性標識体[18F]STZ-AMF および [18F]STZ-BMFを合成できた。また、その放射性標識誘導体の健常マウスにおける体内分布評価も実施することができた。次年度以降は更なる誘導体の設計及び合成を行うとともに、細胞取り込み実験によるインビトロ評価および放射性標識体を用いた2型糖尿病モデルマウスによるインビボ評価を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化合物の安定性や放射性フッ素原子導入の実現可能性を考慮して分子設計の再検討を行いつつ、2種類の候補化合物を合成することができた。また、後年度に計画していた18F標識実験を検討することができた。すなわち、放射性標識合成の反応条件から精製方法まで詳細に検討することができ、[18F]STZ-AMF および [18F]STZ-BMF を[18F]KF とトシル誘導体から 3 工程で合成できた。また、それらを用いて健常マウスにおけるPET撮像実験を行った結果、[18F]STZ-AMF および [18F]STZ-BMFの投与により GLUT2 の発現が報告されている臓器・組織が描出された。一方、それらのニトロソ(NO)基を有しない放射性標識誘導体を用いた場合は、ほとんど腎臓および膀胱しか描出されなかった。従って、肝臓、腎臓、膵臓、腸の描出にNO基が重要であることが示唆された。これらの結果は、今後の分子設計において重要な知見となった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、GLUT2を発現している腫瘍細胞を用いた細胞取り込み実験による基礎的な評価を行った後に、市販されている膵島の初代培養細胞を用いて候補化合物の膵β細胞への取り込み実験を行う。細胞は通常条件と遊離脂肪酸(パルミチン酸)共存条件で培養したものをそれぞれ「グルコース刺激によるインスリン分泌能」の異なる細胞として用いる。加えて、細胞膜上のGLUT2の発現量を測定することによって、インビトロでの候補化合物の取り込み量と膜表面のGLUT2発現量の相関を評価する。この時、用いる細胞の「細胞膜上のGLUT2およびGnT-IVaの発現量」の評価も行う。 最終年度には、インビボ評価のために、高脂肪食負荷による2型糖尿病進行段階別マウスモデルの作製を行う。すなわち、C57BL/6J(+/+)マウスから細胞膜上のGLUT2の発現量が異なる2種類の2型糖尿病モデルマウスを高脂肪食負荷の期間を調節することにより作製する。そして、開発した放射性標識候補化合物と作製した2型糖尿病モデルマウスを用いて放射能体内分布実験を行う。2型糖尿病モデルマウスの膵臓への放射能集積が、細胞膜上のGLUT2の発現量を反映しているか、標準食で飼育した健常モデルマウスの膵臓への放射能集積と比較することによって評価することにより、本研究で開発した放射性標識イメージングプローブの評価を行う。
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