研究課題/領域番号 |
18K15619
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
市地 慶 (市地慶) 東北大学, 医学系研究科, 助教 (90743443)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 肺がん / 放射線治療 / 呼吸性移動対策 / 動体追尾照射 / バイオフィードバック / 呼吸誘導 |
研究実績の概要 |
本研究では,肺がんなど呼吸性移動を伴う腫瘍への放射線線量分布の集中性を向上するため,視聴覚的に情報をフィードバックし,それに基づき被験者が呼吸を随意制御することで,目標とする呼吸動態へと誘導するシステムを開発している.このような呼吸誘導システムでは,従来,事前に定められた呼吸動態(周期・振幅・波形)の再現することに焦点をあてたものが多く,結果として,従来の呼吸誘導システムでは,誘導時点での呼吸動態からかけ離れた被験者にとって不自然な呼吸を強いる面があった.一方,本研究では,誘導時点での呼吸状態を考慮し,被験者にとってより自然な呼吸へと誘導することで,呼吸動態を安定させることを試みている. 本年度は,昨年度に構築した呼吸誘導システムのプロトタイプに導入した被験者へと提示する視覚情報に新たな工夫の実装・検証を進めた.これまでの呼吸誘導システムでは,現在の呼吸動態を点として表し,これを目標の呼吸動態である曲線に一致するように呼吸の深さやタイミングを制御する.この従来のいわば線(目標値)と点(実際の状態)の視覚情報提示では,わずかなずれであっても視覚的に認知可能である.たとえば,吸息の途中で目標よりもわずかに吸いすぎた場合を考える.このとき,目標値へと積極的に一致させようとすると,吸息途中にも関わらず,小さな呼息を試みなくてはならず,結果として不自然な呼吸が誘発されり欠点がある.このようなわずかなずれへの過敏な対処を抑制する狙いで,視覚的に許容程度を示す方式を実装している.この方式では,目標値からのずれが生じた場合でも一定範囲に収まっていれば,ゆるやかに吸息・呼息を加減速すればよく,より自然な形で呼吸動態の再現性・予測性を確保することが可能である. このほか,腫瘍の呼吸性動態の誘導に向け,X線透視により体内腫瘍位置を正確にとらえるための動画像処理手法の開発にも進展が見られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に実装したプロトタイプに本実験に向けた機能追加を行うなど,システムの完成度は高まっており,システム開発の面では進展が見られる.たとえば,呼吸誘導実施プロトコルの円滑な推移に合わせた実験者ユーザーインターフェースの改善や,前年度に課題として指摘した体表面変動を面として記録する機能の追加がなされている.予備実験からは,呼吸動態の再現性と予測性の向上を両立可能であることが示唆される結果が得られており,動体追尾照射・呼吸同期照射のビーム予測制御と組み合わせた場合に良好な性能が達成可能と期待される.さらに,概要に概略を示したように,従来の誘導方式で生じていた誘導誤差の発生要因と,目標を範囲として提示することで生じる呼吸随意制御の現象の実験的理解も進みつつある.加えて,再現性・予測性の向上には,誘導波形にあらかじめ加工を施すことが有効である可能性が見出されるなど,さらなる誘導効果向上への端緒となる発見もあった.他方,病院施設との共同研究については,状況の変化に伴って,大きな進展はみられなかった.本実験に向けて,十分な数の被験者での検証体制の構築が引き続き課題である.このほか,X線透視像中の不明瞭な体内腫瘍像を明瞭に描出するための動画像処理アルゴリズムについての進展は,体表面の呼吸動態ではなく体内腫瘍の呼吸性動態を直接誘導・安定化させるために必要な計測手段としての応用が期待できる.以上,総合すると現在までの達成度はおおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,継続的なシステムの改善を進めるとともに,実験環境・プロトコルを改めて整備し,十分な数の被験者を確保した本実験へと進める.システムの改善に関しては,これまでの実装では機能追加により,リアルタイムでの動作に支障が生じつつあるため,より高速な動作の期待できる言語・フレームワークでの再実装を検討する.また,計測系に利用している深度センサのメーカーサポート終了に伴い,新たな深度センサへの入れ替えも進める.加えて,現在までの達成度にも示したように,呼吸動態のさらなる再現性向上・予測性向上に有効な可能性のある呼吸波形の加工方法について検討を進め,その効果を確かめる.体表面変動の面としての記録はデータ集積は進みつつあるため,多変量時系列解析による解析を進めて,呼吸動態制御に有効な着目すべき部位の特定につなげる.
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