本研究の目的は,肺がんになど呼吸性移動を伴う腫瘍へのより精密・正確な照射を達成すべく,視聴覚フィードバックにより,呼吸動態を目標とする特定の状態へと誘導し,個人差や時間変化により生じる呼吸動態の不確実性を低減する呼吸誘導システムの開発である.最終年度では,これまでに実装した息止め向けの新たな呼吸誘導システムの機能強化を進め,誘導対象者と呼吸誘導システム全体の制御工学的性質を考慮した新誘導方式を考案し,基本概念検証,実装方式考案,プロトタイプ実装・実験的評価を行った. 呼吸誘導システムは,人間に対して目標値を提示し,提示された目標値と実際の状態を人間が視覚認知し,目標値とのずれを比較判断し,そしてそのずれに応じて筋骨格系を駆動することで目標値への追従を実現する.これは人間-機械の結合によるフィードバック制御系として解釈される.しかし,従来,呼吸誘導システムの開発・利用において,生じうるずれはどの程度と見込まれるのか,そもそも目標追従をどの程度確実に実施しうるかといった制御系としての特性は未考慮であった.そこで今回,誘導対象者と誘導システムの制御モデルを構築し,誘導対象者ごとにシステム同定することで,呼吸誘導時の制御特性を解析・評価する手法を開発した.この解析・評価により,既存システムによる息止め誘導時に,目標状態へと収束せず定常的なずれや,目標未達あるいは大幅超過といった事象が生じうることを示す結果を得た.さらに,これら目標値からの追従誤差を予め抑制するため,誘導対象者とシステムの制御特性を改善する外部制御器を新たに設計・検証し,さらにこれを既存の誘導システム内部に組み込む設計技法を新たに考案した.実際に外部制御器を実装した呼吸誘導システムによる予備評価より,目標未達・大幅超過といった追従誤差の低減効果がみられた.また関連・周辺技術である呼吸性移動の計測・予測法の開発も進めた.
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