研究実績の概要 |
昨年度同様、炭素イオン線照射後のがん細胞浸潤能を線エネルギー付与(Linear Energy Transfer: LET)の違いに着目して検討した。対象の細胞である、MDA-MB 231 (高浸潤性ヒト乳癌細胞株)、HT1080 (ヒト線維肉腫細胞)に炭素イオン線(135, 290 MeV/n,mono)を、LETを15, 24, 30, 50,54, 65, 70, 85 keV/μmと条件を変えて照射した。細胞照射は、0.5,1 Gyを照射する方法と、各LETで細胞生残率が70%となる線量を照射する方法の2種類を用いた。照射後,24時間後に培養フラスコに接着している細胞のみを、マトリゲル(0.1 μg/ mL)をコートしたケモタキセル(pore size = 8 μm)の上層に3.0×10^5 cells / wellとなるように播種した。細胞播種24時間後、ケモタキセルの下層に移動した細胞を浸潤細胞としてカウントした。MDA-MB 231、HT1080共にLETが増加すると、細胞浸潤能は抑制された。しかし、LET依存的ではなく、あるLET値で変化する結果が得られた。MDA-MB231の場合、65 keV/μmにおいて、それまでの浸潤能と有意な差がみられた。HT1080の場合、50 keV/μm以降の条件において、LET依存的に細胞浸潤能が抑制される結果を得た。一方、各LETで細胞生残率が70%となる線量を照射する方法を用いても、この結果は変わらなかった。本年度の実験結果より、LETががん浸潤能の抑制に寄与することが示された。また、細胞種によって、効果的に細胞浸潤を抑制させるLET値に違いがあることも分かった。よって、がん種によって最適な照射条件(LET)の選定を行なう事は、細胞死、炭素イオン線の転移抑制効果の面で重要な因子となる事が示された。
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