研究課題
本研究はヒト癌細胞において、Mitochondria pyruvate career1(MPC1)が正常細胞に比しての発現低下が、①上皮間葉転換(EMT)に関与するメカニズム、②放射線抵抗性への影響を検討することを目的としていた。我々はヒト膵癌細胞株および結腸・直腸癌細胞を用いて、MPC発現抑制株を作成した。その結果、MPC1発現抑制によって細胞の紡錘形様への形態変化と、カドへリン・ビメンチン・フィブロネクチンなどのEMTマーカーの間葉系細胞様の変化を認めた。またMPC1の抑制は癌細胞のMigrationを促進することも認めた。さらに我々はミトコンドリアのグルタミントランスポーター(GLS)の発現の程度と結腸・直腸癌細胞においてカドヘリンの発現とが逆相関傾向にあることを発見した。これは即ちGLSの発現亢進が間葉系の形質獲得を促進している可能性を示していた。我々はさらにGLS発現抑制株を作成して、GLSの発現低下により細胞は上皮系の形質を獲得することを確かめた。これら一連の結果から、癌細胞においてMPC1の発現が低下した結果としてミトコンドリア中の糖代謝が抑制され、代償的にグルタミン代謝が亢進するのがEMTのメカニズムの一部である可能性を考えた。続く実験によりMPC1抑制株ではGLSの発現が亢進していることが認められ、またこの細胞をグルタミン欠乏環境やGLS阻害剤付加にて培養したところ、EMT様のマーカー変化は抑制されることを突き止めた。さらに、我々はMPC1抑制株に様々な線量の放射線照射を施工し、細胞の生存率を測定したところ、MPC1抑制株では親株よりも優位に細胞の生存率が優れていた。これらの変化はMPC2抑制では認められず、我々はMPC1の発現低下が、細胞のEMTと放射線抵抗性獲得に重要な働きをしているものと結論づけた。この内容についてはすでに論文化し、報告を行った。
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Cancer Science
巻: 110 ページ: 1331~1339
10.1111/cas.13980