研究課題/領域番号 |
18K15647
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
松原 礼明 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (10598288)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 医学物理学 / 放射線治療 / 中性子線量 / 植込み型心臓デバイス / ソフトエラー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は放射線治療における植込み型心臓デバイスの放射線リスクを定量化することである。現行の心臓デバイスを装着した患者に放射線治療を施行する場合の診療ガイドラインにおいては、1)直接線がはいらない、2)心臓デバイスへの積算線量が2から5Gyを超えない、ことを推奨している。しかしながらこれまでの様々な研究や報告によると、1Gyよりももっと低い線量で誤作動が起こる場合から100Gyまで照射しても誤作動は起こらなかった場合まで様々であった。このように心臓デバイスの放射線リスクはまったく理解されていない状況であった。またこれまでは現象論的な研究(例:何Gy照射で誤作動した、治療患者の何%に誤作動があった等)しか行われていなかったが、本研究はそのような後ろ向きで表面的な理解の現状から脱却し、事象の背後にある物理メカニズムを理解することによって誤作動リスクを前向きに予測して臨床に貢献できることを目指している。 当初の計画は心臓デバイスに対して意図的に中性子線を照射して誤作動を起こす反応断面積を測定することであったが、既に出版されているデータからでも1機種に関する故障率が導出可能であることに気づいたためこれらをまとめた論文執筆を行った。査読の最中に、リスクと中性子線量の間の定量的関係を理論的に導出することが出来、そして出版されている測定・臨床データとも矛盾せずに再現できることが見いだされた。結果、心臓デバイスが臨床で遭遇する誤作動要因の最も大きな一つである中性子に関する誤作動リスクを定量的に理解することに世界で初めて成功した論文を出版することが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文出版に際して厳しい査読プロセスを経たが、そのおかげで中性子線量とデバイスの誤作動回数の間に明確な線形関係があることを理論的に示すことが出来た。更に現在得られる出版データも誤差の範囲内でこの線形関係を再現し、ある1機種の誤作動率を使って前立腺治療中に遭遇する誤作動率を予測すると過去の臨床データの誤作動率とも矛盾しないことを確かめられた。この論文は印刷中である。 一方、元々の研究計画であった中性子線を心臓デバイスの特定箇所に意図的に照射する実験については、大幅な変更を検討している。これは誤作動を起こした後の心臓デバイスのリセットが遠隔操作では困難で現場でプログラマを使用する必要性を考えると、高中性子線量状態の管理区域を頻繁に出入りすることになる中性子線照射実験との相性が悪いと判断したからである。その代わりに、中性子以外の誤作動要因と予測している線量率や積算線量リスクに関するX線照射実験を計画して準備している。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していた中性子線実験ではなく、X線による照射実験を準備中である。これは進捗状況で述べたように実験が技術的に困難であることが理由の一つだが、もう一つは研究開始時とは異なり中性子への誤作動の理解が進んだ結果、中性子以外のリスクを研究するほうが効率的であると判断したからである。中性子以外の誤作動要因としてX線の線量率と積算線量を想定しており、当院のリニアックを使って研究する予定である。またこれらの誤作動要因についても考察を進めることで(出版済みデータだけからでも)臨床的に意義のある新たな知見が得られると期待しており、その考察に関する論文を投稿中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
植込み型心臓デバイスとしてICD一式(250万円)の購入を当初は予定していたが、院内の循環器内科の厚意により廃棄予定の使用済み心臓デバイスを複数譲り受けることができたため、新規購入をしなかった。また予定していた実験を大きく変更しており、まだこの実験は実施していないため当初予定の金額から大きく異なっている。
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