本研究の目的は放射線治療における植込み型心臓デバイスの放射線リスクを原理的に理解して、臨床現場での誤作動を前向きに予測できることを目指している。心臓デバイスを装着した患者に放射線治療を施行する場合の近年改定された診療ガイドラインにおいては、診療の状況に応じたリスク分類をすることにより10Gy程度までの光子線量は許容される場合もあることが示唆されている。しかしながらこれまでの様々な研究や報告によると、1Gyよりももっと低い線量で誤作動が起こる場合から100Gyまで照射しても誤作動は起こらなかった場合まで様々であり、心臓デバイスの放射線リスクはまったく理解されていない状況であった。またこれまでは現象論的な研究(例:何Gy照射で誤作動した、治療患者の何%に誤作動があった等)しか行われていなかった。 本研究によって中性子に関しては、デバイスの誤作動回数が中性子線量に比例するということを原理的に明らかにし、また出版済みの臨床データもこの傾向を支持していることを明らかにした。本年度はすでに取得していた測定データをまとめ、全身照射(TBI)程度の積算光子線量と光子線量率であれば心臓デバイス装着患者に対しても安全に施行可能であることを示唆する報告をした。また粒子線治療の臨床データを報告した他論文に対して、中性子線量の観点からは、陽子線よりも炭素線、パッシブよりもスキャニング照射の方が安全性は高いという有益なコメントをした。以上のように本研究によってこの領域において多大なる貢献ができた。
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