研究課題/領域番号 |
18K15655
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
研究代表者 |
多胡 哲郎 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (50780649)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 放射性医薬品 / 核医学 / PET / HDAC6 / ユビキチン |
研究実績の概要 |
パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症は、それぞれα-シヌクレインやTDP-43といった蛋白質からなるユビキチン陽性封入体の形成を病理学的特徴としている。一方、ヒストンデアセチラーゼ6(HDAC6)という蛋白質はヒストンの脱アセチル化を担う酵素群の一員であるが、別の機能としてポリユビキチン化された蛋白質をアグリソームに運ぶ役割を有する。近年の研究から、HDAC6は上記ユビキチン陽性封入体の形成にかかわり、病変内に集積していることが明らかとなった。本研究課題では、陽電子断層撮像法(PET)によるユビキチン陽性病変イメージングのための脳内HDAC6イメージングプローブ開発を目的とする。PETによるHDAC6イメージング技術は、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症の発症機序の解明や、新規治療薬の開発にも応用できる可能性がある。 本年度の主たる研究実施計画は、新規18F-標識HDAC6プローブの放射性標識合成法の確立である。本研究では脳内移行性が報告されているピリミジン誘導体のHDAC6選択的阻害剤について、そのベンゼン環への直接18F-標識を試みた。非放射性の標品については文献情報を参考に合成することが出来た。しかしベンゼン環への直接18F-標識の前駆体として、19F-体を原料としたボロン酸エステル体の合成を試みたが、目的物は得られなかった。 一方、研究代表者が既に開発していた18F-標識HDAC6プローブについて、その脳内移行性に関する評価を行った。本化合物はHDAC6選択的阻害薬であるツバスタチンAの類縁体である。正常マウスにおいて、小動物PET撮像試験を行った結果、脳内における放射能集積は周辺組織に比べ低く、本化合物は血液脳関門透過性に乏しいことが示された。一方で、P-糖蛋白質阻害条件下においても脳内取込量の改善は認められず、従ってP-糖蛋白質の基質ではないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度の本研究課題の主たる計画内容は、新規HDAC6イメージングプローブの18F-標識合成法の確立である。18F-標識を行う化合物としては、脳内移行性を有することが論文報告されているピリミジン誘導体を選択した。本化合物はフルオロフェニル基を有しているため、そのフッ素をフッ素18に変換することにより、化学構造を変えずに放射性標識することが出来、HDAC6選択性や体内動態も変化しないと期待できる。18F-標識法に関しては、芳香族への直接18F-標識法として近年注目を集めている、ボロン酸エステル体を前駆体として銅触媒を活用する18F-化法を計画した。標品である非標識については合成できたため、ボロン酸エステル体の前駆体についてはNiwaらにより報告された19F-体からニッケル触媒を使用し、ワンステップで合成する方法を試みた。しかしながら本化合物についてはボロン酸エステル化が進行せず、計画に沿った前駆体合成を行うことが出来なかった。ボロン酸エステル体の別の合成ルートとして、ブロモフェニル基を有する原料からの合成を試みたが、反応ステップが多いために途中で複雑な副反応が進行してしまい、この合成ルートからも目的とする前駆体は合成できなかった。以上の結果から、本年度の目標である新規プローブの18F-標識合成法の確立はできなかったため、当初の計画よりも研究の進捗状況はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は引き続き、新規HDAC6イメージングプローブの18F-標識合成法の確立を進める。上記ピリミジン誘導体はHDAC6選択性を有し、かつ脳内移行性も有することが報告されているため、PET用プローブとして期待できると言えるが、その合成ステップが多く、最終目的物の合成のための労力が大きいというデメリットがある。そこで本研究ではピリミジン誘導体の前駆体合成を進めると同時に、別のテトラヒドロキノリン誘導体のHDAC6選択的阻害剤の18F-標識法についても研究を進める。本化合物についても類縁体が脳内移行性を有することが報告されているが、市販の原料からの合成がより簡便であるため、目的とする標品や前駆体を合成しやすいというメリットがある。ピリミジン誘導体と同様に芳香環へのフッ素18の導入を計画しているが、前駆体としてはボロン酸エステル体だけでなく、ハロゲン化体やニトロ体の前駆体についても検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度の本研究課題の主たる研究内容として、新規HDAC6イメージングプローブの18F-標識合成法の確立を計画していた。しかしながら年度内に目的とする18F-標識合成用前駆体が合成できなかったため、標識合成実験を行うために確保していた予算が若干残った。次年度使用額については、新規化合物の標識合成条件の検討実験用費用として使用する。
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