研究実績の概要 |
1)血栓症を疑う病歴や家族歴の確認, 定期検査時に血液凝固系検査を追加し, 遺伝子検査の対象をスクリーニングした.これまでに61人のスクリーニングを行った.このうち21人で下肢の深部静脈血栓症を認めた.またD-dimerの上昇を認めたのは15例であった.PC活性<75%は58例中19例,プロテインS(PS)活性<60%は58例中8例, 45 例の平均PC/PS比は1.08であった.遺伝性血栓症の疑いがあり, 同意の得られた7人に遺伝子検査を施行したがPROC遺伝子の変異は認められなかったが1例でPROS遺伝子変異を認めた.重回帰分析(変数減少法)でPC活性と統計学的に有意な関連性を認めたのは, 年齢(P<0.001), 抗てんかん薬の数(P=0.002), VPA(P=0.003), BZP系抗てんかん薬(P=0.011), PHT(P=0.015), 新規抗てんかん薬(P=0.036), 小児期の血栓症の既往(P=0.047), 性別(P=0.048)であった。 2)重症心身障害児・者のうち, 深部静脈血栓症(DVT)の評価ができている48例についてDVTの有無で2群に分けて比較検討を行った。2群間で気管切開や経腸栄養の有無に有意差はなかった。DVTあり群はDVTなし群に比し, 抗てんかん薬の種類数(P<0.001)が多く, VPA(P=0.05), PB(P=0.034), PHT(P=0.017), BZP系(P=0.018)の使用率が高かった。LEV, GBP, LTG, TPMなどの新規抗てんかん薬の使用率は2群間で有意差を認めなかった。多重ロジスティック解析の結果, 小児期の血栓症の既往, 側弯症, VPA・PHTの使用が, DVTの有無と有意な関連があることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19の流行の目処が立たない社会状況から, 本研究期間内での外来フォロー患者の血栓症発症のスクリーニング検査は十分に行えないことが予想される。このため, 今回の研究で明らかになったプロテインC活性と抗てんかん薬との関係について, 投与開始時期や投与継続期間などの追加情報を収集し, より関連の強い薬剤に注目してプロテインCに対する薬理学的な検討を加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
外来でフォローしている重症心身障害児・者を含む本研究の対象者が, COVID-19感染により重症化するリスクをもっている場合がほとんどであり, 外来受診が控えられた結果, 前向き研究である血栓症発症の評価に必要な血液検査や下肢血管エコーができなくなった。 COVID-19の流行の目処が立たない社会状況を鑑み, 今回の研究で明らかになったプロテインC活性と抗てんかん薬との関係について, 投与開始時期や投与継続期間などの追加情報を収集し, より関連の強い薬剤に注目してプロテインCに対する薬理学的な検討を加え, 論文投稿する。
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