川崎病は冠動脈瘤などの後遺症をきたしうる疾患であるが、難治例に対する治療は未確立である。当教室が開発した Nod1受容体リガンドによる川崎病モデルマウスにおいて、mTOR阻害薬であるテムシロリムスが冠動脈炎を抑制することを発見した。本研究は難治性川崎病に対する新たな治療法の開発に大きく寄与すると期待されるほか、mTOR阻害薬の単球・マクロファージに対する影響を解明し、川崎病のみならず各種血管炎に対する新たな治療戦略にも繋がると考えられる。これらの背景より、効果や作用機序を明らかにし川崎病新規治療法を開発することを目的にマウス実験、細胞実験などを組み合わせて研究を行った。 マウスモデルを用いた実験では、HE染色および心臓浸潤細胞のうちCD45陽性白血球をフローサイトメトリー法を用いて解析した。テムシロリムス濃度依存的に冠動脈炎領域が減少することや、心臓に浸潤した白血球、とくにマクロファージが著明に抑制されることを見いだした。また、テムシロリムスの作用点を検討するため、ヒト冠動脈内皮細胞をテムシロリムス存在下・非存在下にNod1リガンドで刺激し、ケモカイン、細胞接着分子、炎症性サイトカインの発現を解析したところ、単球に対する走化性因子であるCCL2、およびICAMやVCAMなど接着因子の発現に変化は見られなかった。一方で、テムシロリムス存在下ではNod1リガンド刺激後のヒト冠動脈内皮細胞からのCXCL10産生が著明に抑制された。CXCL10の病態への関与を確認するために、抗CXCL10抗体を用いてCXCL10を中和したところ、マウスモデルにおける病理像、心臓浸潤細胞数のいずれも抗体投与群、非投与群の間で差は見られなかった。これらの結果から、テムシロリムスは血球系に作用することで冠動脈炎を抑制していることが明らかになった。
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