研究実績の概要 |
本研究の目的はSchaaf-Yang症候群(SYS)の臨床像、発症メカニズムをモデルマウス作成により解明することである。我々はCRISPR/Cas9システムを使用し、父由来Magel2の1690番~1924番の235塩基欠失をフレームシフトで有するモデルマウスの作成に世界に先駆けて成功した。 父由来アレルに変異を有するマウス(Magel2P:fs)とWTの脳切片を作成し、in situ hybridization法によりMagel2 mRNAの分布を調べた。両群とも視床下部の視交叉上核と室傍核にMagel2 mRNAは発現しており、明らかな違いは認めなかった。次に、Magel2P:fsと野生型同腹仔の体重を比較した。離乳前(日齢10)は、Magel2P:fsは体重増加不良を認めた。離乳後も経時的に体重の比較を行ったところ、オスでは生後8週で、メスでは生後4週でMagel2+の体重に追いついた。 以上よりMagel2編集モデルは、離乳前の体重増加不良以外に明らかな症状を示さず、SYSで認める関節拘縮や重度精神運動発達遅滞は再現できなかった。MAGEL2変異の種類とSYS患者の表現型には相関が認められており、Magel2のc.1690_1924del変異は軽症のSYSを再現したと考えられる。本研究により、変異Magel2蛋白が生体内で毒性を示すメカニズムを解明することはできなかったが、ヒトのSYSと同様に、Magel2遺伝子は変異の種類により表現型が変化することが示された。 以上の成果を学術論文(Ieda, et al. PloS one, 2020)として発表した。
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