エピジェネティック制御機構破綻による小児AML発症機構の解明と新規治療薬の開発

2021 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 18K15687
• 研究機関: 東海大学
• 研究代表者: 山本 将平 東海大学, 医学部, 准教授 (90439480)
• 研究期間 (年度): 2018-04-01 – 2023-03-31
• キーワード: 急性骨髄性白血病 / 骨髄繊維症 / エピジェネティック変異 / ASXL1遺伝子変異 / JAK2V617F

研究実績の概要

Additional sex combs like1(ASXL1)遺伝子変異は骨髄異形成症(MDS)などの血液疾患の要因である。我々は、変異型ASXL1がポリコーム複合体PRC1の機能を抑制することにより遺伝子発現に異常を来すことがMDSの発症原因であることを明らかにした。さらにJAK2V617F(MDS/PMFの原因遺伝子として知られている)などの付加的な異常によって予後不良となる。ASXL1変異がJAK2V617Fに及ぼす機序を解明し、MDS患者に対する新規薬剤開発(分子標的治療薬など)につなげるべく本研究を提案した。ヒト急性骨髄性白血病 (AML)において ASXL1変異およびJAK2V617Fを有する患者の予後は不良である。Asxl1+/-マウスと、JAK2V617Fトランスジェニッ ク (JAK2V617FTg)マウスの2重変異(Asxl1+/-, JAK2V617FTg)マウスは同様にAMLを発症し、より重篤な表現型を呈した。さらにAsxl1+/-, JAK2V617FTgマウスは出生後早期に本態性血小板血症及び骨髄繊維症を認めた。前駆細胞であるBUF-E、CFU-E、CFU-MKはいずれも増加しており、ASXL1変異がJAK2V617Fと強調して骨髄繊維化を増強させると考えた。更に、新規治療薬開発のため、JAK2阻害薬、BAP1阻害薬などの候補薬剤を腹腔内投与し効果判定を行い、JAK2阻害薬の投与によって生存期間の延長が得られることを確認した。2重変異(Asxl1+/-, JAK2V617FTg)マウスはヒストンH3のK4のメチル化が、Asxl1+/-マウスと比較してさらに阻害されていた。このことがより重篤な表現系を示す原因であると考えた。また、新たにDNAメチル化阻害剤、マルチキナーゼ阻害剤が効果的であることを確認した。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

当初の仮説通りエピジェネティック制御機構の破綻がより重篤な血液悪性疾患の発症に関連することを確認し、更にはその前段階として本態性血小板血症および 骨髄線維症の発症が関与していることを示した。薬剤の効果判定による新規薬剤開発とその効果機序を明らかにする必要があるが、HDAC阻害剤、レナリドミドの有効性の確認と、各薬剤の作用機序を明らかにする必要があるがコロナ禍もあり遅れいているため。

今後の研究の推進方策

HDAC阻害剤、レナリドミドの効果判定および、各薬剤の作用機序について解明する。
同時に、ASXL1変異によってがん遺伝子などの発現を抑制の脱抑制がMDS発症機序であると考えられるが、具体的に脱抑制される遺伝子の検出に努める。

次年度使用額が生じた理由

コロナ禍であり、薬剤効果判定の研究と薬剤効果機序判定が終了せず結果の公表に至らなかった。次年度は残った薬剤効果判定試験と薬剤効果機序の解明に努め、可及的速やかに研究結果を公表する。次年度研究費は残された研究と論文作成に使用する予定である。

研究成果

• [雑誌論文] So-called “bifocal tumors” with diabetes insipidous and negative tumor markers: Are they all germinoma? (2021)
  • 著者名/発表者名: Kanamori M, Hatazaki S, Shimizu H, Yoshino A, Abe H, Akimoto J, Kawanishi Y, Suzuki T, Natueme A, Nagane M, Akiyama Y, Keino D, Fukami T, Tomita T, Kanaya K, Tokuyama T, Izumoto S, Nakada M, Kuga D, Yamamoto S, Anei R, Uzuka T, Fukai J, Kijima N, Terashima K, Ichimura K, Nishikawa R
  • 雑誌名: Neuro-Oncol 巻: 23 ページ: 295-303
  • DOI: 10.1093/neuonc/noaa199
  • 査読あり
• [雑誌論文] Successful combination chemotherapy involving clofarabine, cyclophosphamide, and etoposide for pediatric relapsed acute myeloid leukemia: A case report (2021)
  • 著者名/発表者名: Fujita S, Matsuno R, Kawabata N, Sugishita Y, Kaneko R, Koganesawa M, Akiyama K, Toyama D, Yamamoto S
  • 雑誌名: SAGE Open Med Case Rep 巻: 9 ページ: 1-4
  • DOI: 10.1177/2050313X211015511
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Necessity for craniospinal irradiation of germinoma with positive cytology without spinal lesion on MR imaging-A controversy (2021)
  • 著者名/発表者名: Kanamori M, Natsume A, Yoshimoto K, Keino D, Tokuyama T, Asano K, Ujifuku K, Abe H, Nakada M, Matsuda K, Arakawa Y, Ikeda N, Narita Y, Shinojima N, Kambe A, Nonaka M, Izumoto S, Kawanishi Y, Kanaya K, Nomura S, Nakajima K, Yamamoto S, Terashima K, Ichimura K, Nishikawa R
  • 雑誌名: Neurooncol Adv 巻: 3 ページ: vdab086
  • DOI: 10.1093/noajnl/vdab086
  • 査読あり
• [雑誌論文] Anticoagulation treatment and prophylactic edoxaban for cerebral sinus venous thrombosis in an adolescent with acute lymphoblastic leukemia (2021)
  • 著者名/発表者名: Koganesawa M, Matsuno R, Sugishita Y, Kaneko R, Kawabata N, Fujita S, Akiyama K, Toyama D, Yamamoto S
  • 雑誌名: SAGE Open Med Case Rep 巻: 9 ページ: 1-4
  • DOI: 10.1177/2050313X211013225
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Prognostic value of the revised International Prognostic Scoing System five-group cytogenetic abnormalities classification for predicting the outcome of hematopoietic stem cell transplantation in pediatric myelodysplastic syndrome: JSHCT Pediatric MDS Working Group study (2021)
  • 著者名/発表者名: Yamamoto S, Kato M, Watanabe K, Ishimaru S, Hasegawa D, Noguchi M, Hama A, Sato M, Koike T, Iwasaki F, Yagasaki H, Takahashi Y, Kosawa Y, Hashii Y, Morimoto A, Atsuta Y, Hasegawa D, Yoshida N
  • 雑誌名: Bone Marrow Transplant 巻: 56 ページ: 3016-3023
  • DOI: 10.1038/s41409-021-01446-z
  • 査読あり
• [雑誌論文] Myelodysplastic syndrome in a patient with IPEX syndrome (2021)
  • 著者名/発表者名: Toyama D, Hoshino A, Inoue K, Kamiya T, Kanegane H, Yamamoto S
  • 雑誌名: J Clin Immunol 巻: 41 ページ: 1683-1685
  • DOI: 10.1007/s10875-021-01092-6
  • 査読あり
• [学会発表] 長期の経過観察を行なった造血細胞移植後transplant-acquired food allergy (TAFA)の2 例 (2021)
  • 著者名/発表者名: 柴田真由子, 杉下友美子, 川端奈央子, 藤田祥央, 秋山康介, 外山大輔, 山本将平, 小池隆志, 矢部みはる, 矢部普正
  • 学会等名: 第63回日本小児血液・がん学会学術集会
• [学会発表] Allogeneic stem cell transplantation for the treatment of mucopolysaccharidosis ⅣA (2021)
  • 著者名/発表者名: Yabe H, Kawabata N, Fujita S, Akiyama K, Toyama D, Yamamoto S, Koike T, Uchiyama A
  • 学会等名: 第62回日本先天性代謝異常学会学術集会
• [学会発表] 乳幼児期にfull-dose Buレジメンで移植し、成人した女性の性腺機能 (2021)
  • 著者名/発表者名: 川端奈央子, 杉下友美子, 柴田真由子, 藤田祥央, 秋山康介, 外山大輔, 山本将平, 小池隆志, 矢部みはる, 矢部普正
  • 学会等名: 第63回日本小児血液・がん学会学術集会
• [学会発表] 再発難治AML患者のiTAMに対して高圧酸素療法が有効であった一例 (2021)
  • 著者名/発表者名: Iizuka A, Tsujimoto S, Tanoshima R, Hayashi H, Takeuchi M, Enaka M, Koike T, Yamamoto S, Yamanaka S, Shiba N
  • 学会等名: 第63回日本小児血液・がん学会学術集会 2021.11.25
• [学会発表] Brothers with Fanconi anemia showing different ALDH2 mutations (2021)
  • 著者名/発表者名: Fujita S, Sugishita Y, Kaneko R, Akiyama K, Toyama D, Koganesawa M, Otsubo K, Koike T, Yamamoto S, Mochizuki H, Yabe M, Yabe H
  • 学会等名: 第83回日本血液学会学術集会
• [学会発表] Alternative-donor bone marrow transplantation in four half-Japanese children (2021)
  • 著者名/発表者名: Yamamoto S, Fujita S, Sugishita Y, Kaneko R, Akiyama K, Toyama D, Koganesawa M, Otsubo K, Koike T, Mochizuki H, Yabe M, Yabe H
  • 学会等名: 第83回日本血液学会学術集会
• [学会発表] 骨髄採取シミュレーターの開発 (2021)
  • 著者名/発表者名: 小池隆志, 今井枝里, 大坪慶輔, 秋山康介, 外山大輔, 金子綾太, 藤田祥央, 小金澤征也, 山本将平, 望月博之, 矢部普正
  • 学会等名: 第43回日本造血細胞移植学会総会
• [学会発表] Full-dose BUによるBMT後に精子を保存し、TBIを含む再移植後に凍結精子で妊娠した1例 (2021)
  • 著者名/発表者名: 秋山康介, 森本克, 小池隆志, 今井枝里, 外山大輔, 金子綾太, 藤田祥央, 小金澤征也, 山本将平, 望月博之, 矢部普正
  • 学会等名: 第43回日本造血細胞移植学会総会
• [図書] 汎血球減少の鑑別. 小児で経験する「血液の異常」 (2021)
  • 著者名/発表者名: 山本将平
  • 総ページ数: 6
  • 出版者: 東京医学社