本研究は女性小児がん経験者の妊孕性の程度と、それに関わるリスク因子を解明する研究である。 当院の小児がん長期フォローアップ外来を受診している女性小児がん経験者を対象として、妊孕性の評価には、(1)卵巣の予備能の評価に血清抗ミュラー管ホルモン(AMH)の測定、(2)卵巣機能の評価として血清卵胞刺激ホルモン(FSH)の測定、(3)経腟/経腹エコーでの卵巣子宮の器質的異常の評価を行い、1つ以上異常を認めた場合を妊孕性低下ありと定義した。また、妊孕性低下と年齢、小児がんの発症年齢、経過年数、疾患の種類、治療歴(手術、抗がん剤の種類と累積投与量、放射線治療、造血幹細胞移植)との関係を明らかにし、リスク因子を抽出した。実際に登録された症例は55名、そのうち20歳以上が27名であった。今回は生殖年齢に到っている20歳以上の女性を対象に解析を行った。尚、20歳未満の女性に対しては小児のAMH基準値が確立されていない点や二次性徴前の女児を成人女性と同時に評価することが適切ではないため、20歳未満の28名に対しては今後別で解析することとした。妊孕性低下は27例中16例(59.3%)に認められた。このうち(1)AMHの低下は16例全例に認められ、(2)卵巣機能低下は11例、(3)器質的異常は1例であった。(2)(3)で妊孕性低下と判断された症例は全例AMH低下も認めていた。無症候でAMH低下が認められたのは5例(18.5%)であった。妊孕性低下に影響を及ぼす独立したリスク因子はTBI、アルケランの使用歴であった。AMHは卵巣予備能だけでなく卵巣機能低下も反映しており、成人女性小児がん経験者の妊孕性のマーカーとして有用であると考えられた。AMHが低下しているにもかかわらず無症候の症例が18.5%存在しており、今後このような症例を把握し早発卵巣不全(POI)のリスク等の情報提供を行ってゆく必要がある。
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