研究実績の概要 |
MCT8異常症は、甲状腺ホルモンの細胞膜輸送蛋白であるMCT8に異常を来し、発語も独歩も獲得できない最重度の脳障害を呈する。現在、早期診断法、治療法は確立されておらず、分子病態を基盤とした早期診断法および治療法の開発が必要である。また、本邦を含めて大規模解析はなされておらず、発症頻度も不明である。本研究では、1)タンデムマス法(LC-MS/MS)を用いたreverse T3(rT3)測定による早期診断法の開発、2)本症の脳障害モデル動物を用いたアデノ随伴ウィルスベクターによる遺伝子治療の開発、3)重症心身障害児(者)施設の原因不明の精神運動発達遅滞児における本症の大規模解析を目的として研究を行った。 タンデムマス法(LC-MS/MS)を用いたT3, reverse T3 (rT3)の測定により、健常新生児から本症患児を発見する方法を開発した。rT3はT4から生成し、T3の鏡面体で甲状腺ホルモンとしての活性を持たない。健常新生児と本症患児のrT3の分布は重なりを持たず、感度・特異度は100%だった。また、科学技術振興機構により、本法は新規性および既存類似技術に対する優位性があると評価された [JST2019-066]。本大学にて特許出願を検討したが、需要が少なく製品化が困難と判断し特許出願は断念した。この結果をThyroid(IF 5.227)に投稿しアクセプトされアメリカ内分泌学会で口演発表を行った。 脳障害モデルマウスについては現在、表現型の解析を行っている。タンデムマス法によりマウス血液中のT3, rT3, T4を測定することに成功した。重症心身障害児(者)施設の原因不明の精神運動発達遅滞児に関する研究は検体が十分に収集できず断念した。
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