申請者は前年度までに、磁気細胞分離法を用いて海馬からアストロサイトを分離しRNAを抽出する系を確立し、側頭葉てんかんモデルマウスのアストロサイトからmRNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いたトランスクリプトーム解析を行うことで、てんかん原生型アストロサイトの分子プロファイルを網羅的に解析した。また、解析結果からアストロサイト性のてんかん関連候補分子を200遺伝子前後リストアップした。このうち、薬理学・分子生物学的操作が可能である候補遺伝子10遺伝子前後について、qRT-PCR法を用いて発現変動の有無について再現性を確認した。その中で、候補遺伝子の分子産物についてそれらの薬理学的操作 が、アストロサイトのCa2+興奮性及び神経活動に与える影響を、海馬急性スライス標本(ex vivo)を用いて解析した。その結果、ある受容体(X受容体とする)の発現亢進がてんかん原生型アストロサイトの本質的な機能変調の原因の一つとなっている可能性を見出した。(てんかん性アストロサイトではCa2+興奮性が亢進していたが、これがX受容体の阻害剤で軽減した。) さらに、上記X受容体のアストロサイト特異的・時期特異的ノックアウトマウスを作成し、基本的な属性の評価を行った。その結果確かに時期特異的アストロサイト特異的にX受容体がノックアウトできることを、蛍光免疫染色法を用いて確認した。 前年度には、このマウスにおいて、てんかん原生獲得が予防されうる可能性があることを、脳波および行動実験を用いて確認した。また、上記X受容体のアストロサイト特異的・時期特異的ノックアウトマウスでは、側頭葉てんかんで認められる苔状繊維の異常発芽が抑制されうる可能性を見出し、今後、別の科研費課題に引継ぎさらに検討を進める予定とした。
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