ダウン症候群では成人期に認知障害を高率に発症する。一般的に21番染色体上にある遺伝子コピー数が増えることによる‘遺伝子量効果’が合併症発症の原因と考えられているが、ヒトで出生可能な13,18,21トリソミー患者由来の皮膚線維芽細胞をもちいた研究により染色体異常そのものが引き起こす共通のストレス作用(トリソミー誘導性ストレス)が存在することが分かってきた。そこで本研究では、「ダウン症候群にみられる中枢神経病変は、21番染色体の‘遺伝子量効果’と、‘トリソミー誘導性ストレス’のふたつが作用することによって発症する」という仮説をもとに、疾患特異的iPS細胞と神経分化誘導、そしてゲノム編集技術を組み合わせてその検証を行う。 本年度においては、まずiPS細胞から神経分化誘導する系の構築を行った。まず神経細胞の病態を‘発達過程’と‘老化過程’のふたつに分け、各ステップにおける病変を明確に区別して評価することを目指した。発達過程を解析するための分化誘導系については、iPS細胞からロゼット形成・神経前駆細胞を介した分化誘導を行った。トリソミーの神経前駆細胞ではいずれも増殖低下がみられ、トリソミー誘導性ストレスが作用していることが分かった。分化誘導効率については、21トリソミーにおいてのみアストロサイトの細胞数が著しく多いことがわかった。21番染色体にS100β遺伝子があることから、分化誘導効率については遺伝子量効果が強く作用するものと思われた。
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